<地獄の沙汰も金次第>G地獄の沙汰も金次第


教師:さて今日は、地獄の沙汰も金次第の授業のまとめです。この時代に特徴的なある事件を描いた資料が教科書にあるから、それを読んで、この時代のことを考えてみようと思います。教科書85ページの資料「公家や僧から見た土一揆(どいっき)」を開けてみてください。

 じゃあ誰か読んでくれますか?。・・・・はい■■くん。お願いします。

 正長元年9月○日、天下の土民が暴動をおこした。徳政ととなえ、酒屋・土倉・寺院などをこわし、雑物を奪い、借金証文などを破った。管領がこれを成敗した。国を滅ぼすものとしてはこれ以上のことはない。
(『大乗院日記目録』、一部要約)

生徒:「先生。土民って何ですか?。」

教師:うん。良い質問だね。・・・・君はどんな人を指している言葉だと思いますか?。

生徒:「うーん。なんか汚い人って感じかな?。土って字を使っているから?。」

生徒:「汚いなんておかしいよ。土って大事じゃない。土がないと作物もできないのだから。」

教師:うん。大事な視点だね。・・・・はい○○さん。

生徒:「この資料を書いたのは、大乗院と書いてあるからお坊さんだと思います。だからお坊さんからみて『汚い仕事をする人』っていう意味じゃないかしら?。」

生徒:「じゃあ泥棒とかそういうことか?。」

生徒:「そうじゃなくて・・・・・」

教師:この時代のお坊さん、とくに大きな御寺の責任者などをするお坊さんは、貴族、公家ともいうね、貴族の子どもたちが多いんだ。

生徒:「あっつ、わかった。・・・貴族ってのはみんなからの税金で食っているから、ほとんど働かないね。ということは、貴族のように働かない人ということじゃあなくて、泥に汚れて仕事をする人って意味じゃないか?。」

生徒:「じゃあ、農民とか商人とか、物を作る職人さんなんかかな。」

生徒:「それに武士もはいるんじゃない?。」

生徒:「武士は違うよ。だんだん偉くなってきているから、税をとって働かない人になったんじゃない。先生どうなの?。」

教師:そう。良いところに気がついたね。土民というのは、貴族や武士から見て身分の低い人。下の身分の人って意味なんだ。だから商人や職人や農民などが入ってくるんだね。・・・・じゃあ土民の意味がわかったところで、この資料に書いてある、土一揆がどういうものかを資料を読んでノートにまとめてみよう。・・・『土民ってなんだろう』はいいね。『どこを襲ったの』と『何がねらいなの』を答えてみよう。

(各自資料を読みなおして、ノートに自分の考えを書く)

教師:じゃあ、確認してみよう。・・・どこを襲ったのかな?。

生徒:「酒屋!!!」「土倉!!!」「寺院!!!」

教師:では、何がねらいなの?。

生徒:「借金証文を破るため!!!」「雑物を奪うため!!!」

生徒:「借金証文って何?。」

教師:借金をした証拠になる文書のことで、誰がいつ誰からいくら、いつまでに返す条件で、利子はいくら払うなどが書かれた文書だよ。

生徒:「じゃあ、その証拠の文書を破るってことは、借金返さなくって良くなるってことだ。」

生徒:「借金帳消し!!」

生徒:「徳政令!!!」

教師:そういうことだね。だから徳政ってとなえたということは、借金を帳消しにしろってことで、借金証書を破ったということは、土民が自分の力で徳政をやってしまったということなんだ。

生徒:「じゃあ、酒屋とか土倉とか寺院はお金を貸していたわけね。」

生徒:「なんで銀行とか金貸しとか質屋って呼ばないで、酒屋とか土倉っていうの?。」

教師:それはね。酒屋さんは誰でも出きるものではなく許可された人しかできないんだ。だからすごく儲かってね、それで金貸しを始めたんだ。それから土倉というのは、今で言えば貸し倉庫屋。大きな港町や街道沿いの町には、商業が発展してくると荷物を預かる商売が始まり、それで儲けたお金で金貸しをしたんだね。・・・御寺も同じ。年貢は入ってくるし、古い有名な御寺になれば御賽銭も入る。余ったお金で金貸しをしたんだ。

 これで土一揆はわかったかな?。・・・じゃあ問題を考えてみよう。「土民は何のために何を質に入れて借金をしたのだろう」。

生徒:「質って何?。」

教師:お金を借りるときに、もし借りたお金を返せなかったら、かわりに金貸しにわたす金目のものです。

生徒:「ふーん。金目のものね・・・。」

(各自、問いに答え、ノートに記入する)

教師:じゃあ、みんなの考えを聞いてみよう。・・・・はい、▼▼くん。

生徒:「はい。天候が悪くて作物ができず、食べ物を買うお金がなくなったので借金したのだと思います。質に入れたのは、農民だったら畑やくわなどの道具。商人や職人さんだったらお店や道具じゃないかな?。」

教師:なるほど・・・・他には?。・・・・・はい□□くん。

生徒:「はい。仕事に必要なお金が欲しかったと思います。商人や農民や職人も売るために品物を作っていたから、材料を仕入れたりするのにお金が必要だと思います。質に入れたものは▼▼くんと同じです。」

教師:なるほど。商工業が発展していたからね。・・・・・他にはどうだろう。・・・・・・はい、○○さん。

生徒:「はい。私は、年貢の取立てが厳しいので、それで年貢を納めるために借金をしたんだと思います。質に入れたものの補足ですけど、前に泣く子と地頭には勝てぬのところの資料にも出てたけど、人間ってのもあったんじゃないですか。女の人や子どもとか・・・。」

教師:なるほど、良いところに気がついたね。・・・だから人質っていうんだね。

生徒:「あっつ、そうか。人間をつかまえて代わりにお金要求するから人質。なるほど。」

生徒:「先生。質問。」

教師:はい、何ですか。△△さん。

生徒:「今出てきた質に入れたものを見ると、もし借金を返せないと、大変なことになりますね。」

教師:どういうことかな。もうちょっと説明して。

生徒:「はい。畑やくわを取られたら農民は農業が出来ないし、お店や道具をとられたら商人や職人も仕事ができません。仕事ができないということは、お金が手に入らないということだから、暮らしはますます苦しくなります。」

教師:そう。良いところに気がついたね。借金を返せれば何とか暮らしていけるけど、何かの理由でそれが出来ないとかえって暮らしはひどくなる。

生徒:「じゃあ、天気が悪くて作物ができなかったり、年貢が重すぎて払いきれないとかいうことが続いたんだね。」

教師:そう。それもあるだろうね。それ以外にも、前の時間にやった惣村が年貢のとりたてを領主のかわりにやるというのがあったけど、この時に、何年分か前払いという制度もあったらしいんだ。

生徒:「何年分か前払いしたあとで天気が悪くなって作物が取れないと悲惨だね。」

教師:そうだね。・・・・・・じゃあ、もう少しくわしく土一揆について考えてみよう。資料を配ります。

(資料J「嘉吉の土一揆」を配布する)

教師:では、誰か読んでください。・・・・・・はい。■■くん。お願いします。

 嘉吉元年(1441年)9月はじめ。京都のまわりの村などでいっせいに土民が立ちあがった。総勢2万人。
 京都南方の「東一揆」2・3千人は東寺(@)に陣取り西の「丹波口一揆」千人ほどは今西宮(A)にこもり、西南部の「五ケ庄衆」千人は西八条(B)に、「西岡衆」2・3千は北野社(E)太秦(F)に陣取るなど、一揆は京都のまわりの交通の要地や寺社16ヶ所を占領し京都を完全に取り囲んでしまった。
 一揆は金貸しを襲い借金証文を奪い、これをやめさせようとした幕府軍と戦いこれを敗走させた。
 この間一揆に占領された寺の僧侶たちはなすすべもなく、一揆の衆に酒や枝豆を出して、ひたすら低姿勢をとった。
 このような中で、幕府と土一揆との話し合いがはじまり、幕府方にたいして土民は「貴族や武士のかたがたも借金でお困りのようなので全ての者にたいする徳政令をお願いする」と主張した。
 こうして9月12日。幕府は武士や貴族をふくむ全ての人に 対する徳政令を決め、これを人々に知らせた。

生徒:「2万人の一揆ってすごいね。」

生徒:「幕府軍を破ってしまったんだ。」

教師:この一揆はちょうど将軍が家来の大名に殺されて、幕府軍の主力はその大名を討つために出かけているその留守だから、幕府も手薄だったのかも。

生徒:「そう言うときを狙ってやったんだね。」

教師:そうだろうね。・・・じゃあ、裏の資料を見てみよう。この時に幕府が出した嘉吉の徳政令だ。

嘉吉の徳政令(1441年9月)

  徳政のこと

            嘉吉元年(1441年)9月12日

一.年季(20年)を過ぎても借金を返せなくてとられた家のこと

  元の持ち主に返すこと

一. 年季(20年)を過ぎても借金を返せなくてとられた土地のこと

  元の持ち主に返すこと

一.徳政令が出ても借金の帳消しはなしとの内容をもった借金証書のこと

  借金証書を借主に返すこと(借金は帳消し)

一.質に入れてとられた土地のこと

  元の持ち主に返すこと

                  など

生徒:「すごいね。全部借金が帳消しだ。」

生徒:「この徳政令は全ての人の借金を帳消しにしたんだね。」

教師:そうです。前にやった鎌倉時代の永仁の徳政令では、「御家人の借金」というぐあいに対象が限られていたけど、この場合は、だれの借金と限っていないから、全ての人の借金が帳消しになったんだね。

 じゃあ最後の問題です。幕府がこの土一揆の時にその要求を入れて徳政令を出した理由はなんだろう。自分の意見をノートに書いてください。

(各自ノートに自分の意見を書く)

教師:だいたいかけたかな?。じゃあ班で討論してまとめてみよう。

(各班で討論する)

教師:では各班の意見を聞きます。・・・・・はい。1班。御願いします。

生徒:「はい。土民の力に驚いてしかたなく徳政令を出したのだと思います。」

教師:なるほど。・・・・・はい6班。

生徒:「はい。1班の意見に補足ですが、幕府は土一揆と戦って負けたので徳政令をだすしかなかったんだと思います。」

教師:なるほど。

生徒:「質問です。」

教師:はい。××くん。何ですか?。

生徒:「はい。たしか御家人も借金をしていたんですよね。」

教師:そうですね。すでに鎌倉時代からですね。

生徒:「だったら、幕府は借金をして困っている御家人を助けるという目的もあったと思います。」

生徒:「でも、そうなら、自分で徳政令を出せばいいんじゃない。鎌倉幕府がやったように。」

生徒:「あっそうか。」

生徒:「はい。質問です。」

教師:はい。○○さん。どうぞ。

生徒:「はい。たしか、天皇や貴族や御寺なども領地の年貢を集めるのに高利貸しの力を借りていましたよね。」

教師:はい。そうです。

生徒:「だったら高利貸しの力が強いわけだから、幕府が御家人の借金を帳消しにしたくても出来なかったんじゃないですか。」

生徒:「なるほど!!。だから土民が一揆をやったのでちょうど良いから徳政令を出して御家人を助けようとしたんだ。」

生徒:「なるほど!!!」「高利貸しのほうが幕府よりも強いんだ!!」

教師:うん。面白いところに気がついたね。

生徒:「先生!!」

教師:はい。◎◎くん。何ですか。

生徒:「はい。一番最初の授業でやったけど、幕府の有力者も金貸しをしていたということでしたね。そうなら徳政令を出してしまえば、自分が貸したお金も返ってこないわけで、損をするんじゃないですか。やっぱり土一揆に脅されてしかたなく徳政令を出したんですよ。」

生徒:「あっつ、そうか!!」

生徒:「先生、どっちなんですか?。」

教師:うん。嘉吉の徳政令については、土一揆に負けてしかたなく出したという側面と、ちょうど御家人を救うにも良いから出したと言う側面との両方があったと思う。一揆勢と幕府との交渉の中で、最初は徳政令を出すことを渋っていた幕府側が、一揆の方から、全ての人を対象とする徳政令にしようとの提案があってから急に幕府の態度が変わり、徳政令を出すにいたったという資料があるんだ。

生徒:「へえーっつ!!」

教師:幕府の有力者が高利貸しをするようになるのは、この嘉吉の土一揆のあとの時代だから、自分の貸した金が返らなくて損というわけでもなさそうだ。・・・・それから後の時代になるけど、土一揆が毎年のように起こったということが教科書に書いてあるね。85ページの一番下だよ。

生徒:「うん。あるある。」

 農民などによる一揆は、支配者から土一揆とよばれ、恐れられたが、これ以後約100年間、毎年のようにおこった。

教師:毎年のように土一揆が起きると幕府も毎年のように徳政令を出すんだ。

生徒:「それじゃ高利貸しはたまったもんじゃないね。」

教師:そう。そのとおり。・・・でも土一揆の記録を見ると、その多くは幕府の将軍直属の武士が治めている村村が先頭に立って起こしていて、しかも土一揆の指導者たちは、その将軍直属の武士の家来になっているという事実もあるんだよ。

生徒:「えっつ、じゃあ、やらせ?。・」

生徒:「土一揆は幕府のやらせなの?。」

教師:その可能性があるということだね。

生徒:「何のため?。」「御家人を救うため?。」

教師:それもあるかもしれない。もしかしたらこの時代になると幕府も年貢がなかなか入ってこないから高利貸しに借金して幕府の仕事をしたり自分たちの暮らしを立てていたらしいので、自分たちの借金を帳消しにするために、土一揆を起こさせていたという可能性もあるんだ。

生徒:「えっつ、ひでー!!!」

生徒:「それだけ、お金を持っている高利貸しの力が強いということだ!!!」

教師:そう。そういうことだね。お金の力がすごく強い。

生徒:「地獄の沙汰も金次第だ!!!」(爆笑!!)

教師:そう。地獄の閻魔大王にお金を渡せば、地獄じゃなくて極楽にも行けるということだね。金さえあれば何でも買えると言う考えを現しているんだろうね。・・・じゃあこれでこの単元は終わりにしよう。まとめ問題はあとで自分でやっておいてください。


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