<つるばみの衣>G つるばみの衣は・・・・・・・・・・


教師:では、今日は、奈良時代のまとめとして、このつるばみの衣の意味を考えてみたいと思います。ただその前に、奈良時代の律令国家の身分の

    しくみを確認しておいたほうがわかりやすいので、最初にノートの頭の復習問題をやってみてください。

(各自問題に取り組む)

○律令国家の身分と負担

 @律令国家の人々は【     】と奴婢などの【    】の身分があった。

 A税には、口分田の稲で納める【   】と、各地の特産物で納める【   】、都で10日間の労役をするか

  そのかわりに布を納めるかする【    】がある。

 B税のうち、【     】と【     】は都まで運ばねばならない。

 C税以外には、兵士となる【      】と、さまざまな土木工事に従う【      】とがある。

 D租は全ての人が納めねばならないが、これ以外の税や負担は、【      】の成人男子が負担する。

  (ただし、貴族も租だけ)

教師:だいたいできたかな。・・・・じゃあ、律令国家の人々は何と何の身分に分かれていた?。

生徒:「良民と賎民(せんみん)!!!」

教師:そうだね。で、このうち奴婢が含まれているのはどっち?。

生徒:「賎民!!!」

教師:そのとおりだ。そしてこの良民の上に天皇や貴族というさらに上の身分があったんだね。ところで奴婢ってなんだっけ?。

生徒:「奴隷!!!!」

教師:そうだ。奴隷。・・・で奴隷ってどんな扱いを受ける人のことだっけ。

生徒:「物!!!」「財産!!!」「売り買いされる!!!!」

教師:そうだね。売り買いされる人の事を奴婢っていったんだね。・・・・では税だけど、稲で納めるのは?。

生徒:「租!!!」

教師:では各地の特産物で納めるのは?。

生徒:「調!!!」

教師:そして労役をするか布で納めるかするものは?。

生徒:「庸!!!」

教師:そのとおりです。いいね。よくわかっている。・・では税の内で都まで運ばねばならないのは?。

生徒:「調と庸!!!!」

教師:正解!!!。そして税以外の負担で、兵士になるのは?。

生徒:「兵役!!」

教師:そう。兵役。そして土木工事に従うのは?。

生徒:「労役!!!!」

教師:よろしい。では最後。租以外の税や負担は、誰が負担するの?。

生徒:「良民の成人男子!!!」

教師:はい。正解です。・・・・・・・ということは律令国家の人々で、租しか納めなくて良い人って誰?。

生徒:「貴族!!!!」「賎民!!!!」

教師:そうです。貴族と賎民。これが律令国家の身分制度だったのですね。いいでしょう。・・・・・では、きょうは「つるばみの衣」の意味を考えましょ

    う。実はこの言葉は次のような万葉集の中の歌に出てくる言葉なんです。(資料Kを配布する)

<つるばみの衣>資料K「庶民の歌」

【万葉集巻の7・1311】 

  つるばみの衣は人みな事なしと言いし時より着欲しく思おゆ 

注)つるばみの衣:つるばみ(ドングリの実のしる)でそめた黒っぽい衣。
           賎民のなかでも最も身分の低い奴婢が着るもの。

  事なし:わずらわしいこと、面倒な事、いやなことがない。

歌のだいたいの意味:つるばみの衣を着た人は、だれでもみなわずらわしい事が
              ないというのを聞いた時から、私はつるばみの衣を着てみ
              たいことだと思っている。

生徒:「つるばみの衣って黒っぽい服なんだ」

生徒:「つるばみの衣って奴婢が着る着物なんだね。」

教師:そうです。奴婢が着る着物なんだね。当時は身分の違いで着る着物が違っていたんだね。・・・・・・ということはこの歌は何になりたいと歌って

    いる事になるのかな?。

生徒:「はい。奴婢になりたいといっています」

教師:そのとおりです。・・・・・・では、今日の問題。「庶民、つまり良民がつるばみの衣を着たいとおもったのはなぜだろう」。これは「庶民が奴婢にな

   りたいと思ったのはなぜ?という質問を同じだね。(各自自分で考えノートに自分の考えを記入する)

教師:では書けたかな?。・・・・・・では班にして討論してみよう。

(班での討論)

教師:それではそろそろ良いだろうか。・・・じゃあ発表してもらおう。・・・・・はい。1班お願いします。

生徒:「はい。うちの班では奴婢は良民とくらべて面倒くさいことがないから、奴婢になりたいと思ってこの歌を歌ったのだと思います。」

教師:なるほど。その面倒くさい事って何かな?。

生徒:「はい。税を払う事だと思います。」

教師:なるほど。・・・・・はい、ありがとう。・・・では他に?。・・・・・5班お願いします。

生徒:「はい。奴婢にあこがれてこの歌を歌ったのだと思います。なぜかというと、良民はたくさん税をはらわなくてはならないし、それ以外にも都をつ

    くったり大仏をつくったり、たくさん労役をやらなくてはいけません。でも奴婢は租だけ払えばいいのですから生活は楽です。だからあこがれた

    んだと思います。」

教師:なるほど。税や労役で苦しんでいたからそれがない奴婢にあこがれたんですね。・・・・・はい、4班どうぞ。

生徒:今の5班とほとんど同じなんですが、良民は税や労役以外にも兵役にも行かなければならなくて大変ですが、奴婢は税や労役や兵役はほとん

    どありません。楽な暮らしだと思ったから奴婢になりたいと思ったのだと思います。」

教師:なるほど。奴婢の暮らしは楽だと・・・・・・。はい。他の班はどうかな?。

生徒:「2班も同じ意見です」

生徒:「3班もうなじです」

生徒:「6班も同じです」

教師:みんな同じ意見みたいだね・・・・・・・・。○○くん。なんですか?。

生徒:「はい。えっと、質問なんですが、奴婢の暮らしは楽だなんてだれから聞いたんですか?。」

生徒:「またくだらない質問して!!!○○は。」

教師:もうすこし○○くんの質問を聞いてみようよ。もう少し詳しくお願いします。

生徒:「はい。奴婢って奴隷の事ですよね。」

教師:そう。奴隷ですね。

生徒:「奴隷って売り買いされて物みたいに扱われる人の事ですよね?。」

生徒:「○○何が言いたいんだよ。はっきり言え!!!」

生徒:「うん。みんなは奴婢の暮らしは楽だっていうけど、売り買いされて物みたいに扱われる人って幸せなのかな?。僕は幸せじゃあないと思う。だ

    って自由がないじゃないか。・・・・・・だからこの歌を歌った人は奴婢の本当の生活を知らなかったんじゃあないんですか。だから、奴婢から直

    接聞いたんじゃあないと思います。」

生徒:「おーなるほど!!!」「そうかな!!!そうは思わない。」

教師:うん。良い質問だね。今のところみんなは奴婢は楽な暮らしをしているから奴婢になりたいと思ってこの歌を歌ったと言っていたけど、○○くん

   は、自由のない奴婢の暮らしは楽じゃあない。楽だって言う話はだれから聞いたのかという質問だね。これは良い質問だ。みんなで考えてみよ

   うよ。・・・・・・・・・・・・・・・・どうだろう。(みんな考えている)

   ・・・・・・・・・・・・・・・はい。□□さん。

生徒:「はい。私はこれは奴婢の暮らしを知らない人が、税も少ないし労役や兵役がないということを聞いて、これは楽な暮らしだと思い違いしたのだ

    と思います。良民の暮らしはきついですから。」

教師:なるほど。思い違いね・・・・・・・はい。△△くん。

生徒:「はい。僕は違うと思います。この歌を歌った人はちゃんと奴婢の暮らしを知っていたんだと思います。直接話を聞いたかもしれない。それでた

    しかに奴婢は自由がないかもしれないし売られるかもしれないけど、ちゃんとご飯は食べさせてもらっていると思います。売り物ですから。だけ

    ども良民は税も多いし労役や兵役もあるし、その上飢饉などになれば食べるものもなくて死んでしまいます。だからこの歌を歌った人は、苦し

    い暮らしで死んでしまうよりも、自由はなくても食べるものがあって生きて行ける方が良いと考えたのだと思います。」

教師:なるほど。奴婢の暮らしは自由がないと知ってはいたけど、飢えて死ぬより自由がなくても食べられる方がましと考えたってことです

    ね。・・・・・・・うーん。まるっきり正反対のえ考えになりましたね。どっちでもありうる。・・・・・・じゃあみんなに聞くけど、もしも君たちが奈良時代

    の良民だったら、この歌の作者のように奴婢になりたいって思うかな?思わないかな?どっちだろう。・・・・・はい。○○さん。

生徒:「私は飢えて死ぬより、自由がなくても食べていける奴婢になりたいと思います。」

生徒:「はい。僕は反対です!!!」

教師:はい。××くん。

生徒:「僕は食べて行けても自由がないんじゃいやです。奴婢になんかなりたくありません。」

生徒:「でも飢え死にするよりましだと思う。」

生徒:「なにも自分のしたい事ができず、あちこちに売られる生活なんか、生きている意味がない。死んだほうがましだ。」

生徒:「僕はご飯が食べられるほうがいいな。でも奴婢もやだからちょっと悪いことして牢屋に入ってしばらくご飯食べさせてもらうよ!」

(みんな爆笑!!! □□らしい意見だと)

生徒:「わたしも奴婢にはなりたくありません。自由がないなんて信じられない。・・・・それにいつも飢饉があるわけじゃあないから必ず飢えて死ぬわ

    けじゃないと思います。」

生徒:「だけど税は重いしいろんなことをやらされる。大仏なんかもつくらされ、その帰りに食料が足りなくて死んでしまうこともあるぞ。」

教師:うん。おもしろい意見が出ているね。ちょっと聞いてみよう。手をあげてください。・・・・・良民がいいか奴婢がいいか。どっちだ!!!。

(結果は半々どっちが多数とも言えない)

生徒:「先生質問です!!」

教師:はい、□□さん。なんですか。

生徒:「良民は奴婢になる事はできるんですか?。できないのならこの歌は意味がない。」

教師:うん、良い質問だね。・・・良民が奴婢になることはできます。自分を売れば良いのですから。

生徒:「誰に売るの?。」

教師:御金持ちの豪族や貴族に直接売ってもいいし、奴婢の売り買いを専門にした商人もいたと思うよ。

生徒:「じゃあ、逆に奴婢から良民になることはできたんですか?。」

教師:うん。そんなに多くないけど、持ち主が奴婢を奴婢の身分から解放すれば良民になれるんだ。

生徒:じゃあ、なれるんだね。

生徒:「貴族にはなれないんですか?。貴族なら租だけ納めればいいのだし、奴婢と違って自由もあるし。」

教師:うん。それが残念ながら貴族にはなれないんだよ。

生徒:「なんで?。」

生徒:「生まれで決まるんでしょ?。」

教師:う?。どういうことかな。

生徒:親が貴族でなければ貴族にはなれないんだと思う。身分が違うんだから。

教師:そうですね。貴族には貴族の子供しかなれない。

生徒:「なーんだ。残念。」

教師:では、最後に、一番最後の問題。「律令国家ができたことは庶民にとっ幸せだったのだろうか」。考えてみてください。

(しばらくして)

教師:じゃあ、何人か発表してもらおう。・・・・・・では、△△さん。

生徒:「私は幸せではなかったと思います。なぜならば税は重いし負担は重いし、良い事はなかったからです。」

生徒:「ぼくもそう思います。」

生徒:「私も!!!」

教師:なるほど。・・・・・・はい。○○くん。

生徒:「はい。僕は幸せとは言いにくいのですが、悪い事ばかりだとは思いません。ヤマト国家の時代とは違って争いは少なくなって平和になったと

   思うし、それに良民は昔は自分の土地を持たなかったけど、律令国家ができてから借りるわけだけど自分の田畑ができたので、前よりは暮らし

   は良くなったと思うからです。」

教師:なるほど。悪い事ばかりじゃないということだね。

生徒:「それに大佛様も作ったのだから、少しは病気なども少なくなったんじゃあないかな?。」

生徒:「何馬鹿なこと言っているの。神様にお願いして病気が少なくなるわけがないじゃあない。」

生徒:「そうかな。」

教師:うん。それはどうかな・・・・・・・・・・・・。ともかく律令国家になって良い事も悪い事もあるんだね。あとはそれぞれがどう感じるかと言う問題かもし

   れないね。・・・・・・・・ではこれで「つるばみの衣」の学習は終わります。次の時間はレポートを書いてもらいますので、そのつもりでノートなどを

   読み返しておいてください。


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