2:国際紛争解決手段として戦争は有効か?


 これははっきりいって有効ではありません。かえって泥沼に入っていることは、この間の湾岸戦争やユーゴ内戦を見ても明らかですし、第1次世界

大戦や第2次世界大戦を見ても明らかです。

 第1次世界大戦は、最初はドイツの優勢で始まったものの、東西両面作戦の重荷にドイツ軍の進撃がとまったあたりから膠着状態が続きました。

この局面に大きな変化が生じ終戦へと向かった切っ掛けはロシア革命でした。

 世界で最初の社会主義革命の勃発は、帝国主義諸国をして震撼せしめ、戦争終結へと総力をあげてドイツを攻めたてました。でもドイツ降伏はキ

ール軍港でも水兵の蜂起と、キールを始めとする各地で労働者・兵士評議会が権力を握り、それが首都ベルリンにも及んだことです。結局この動き

は、当時のドイツ共産党の未熟さと指導者の虐殺とによって社会主義革命にはいたりませんでしたが、この動きなくして際限ない戦争は終わらなか

った事はたしかです。

 普通は、第一次世界大戦は、アメリカ合衆国の参戦によって終結したかのように語られることが多いですが、これは第二次世界大戦がアメリカの

圧倒的な力で終結し、戦後世界がアメリカ中心に再編成された後にできた神話に過ぎません。

 湾岸戦争は、アラブから石油資源を守るためにイギリスがイラク領内から独立させたクウエートを、イラクが武力侵略したことに始まります。この戦

いでは、正義はイラクにあったのです。アラブの人々にとっては。

 ですがクウエートを占領されては世界一の油田は国有化され、英米の石油資本にとってはその基盤を根幹から奪われます。この石油資本の利害

を背景に、英米軍を主体とした多国籍軍が介入したのが湾岸戦争です。

 たしかにアメリカは、その圧倒的な軍事力によりイラク軍をクウエートから撤退させましたが、その意欲を挫くには陸上での戦争が必要であり、そ

れには多大な犠牲を覚悟しなければなりません。この時なぜ英米が地上戦に撃ってでなかったのか。それは当初北ベトナム空爆から始まったベト

ナム戦争が、結局は民族の独立と統一を目指すベトナム人の戦いによって地上戦に引きずり込まれて敗北した、ベトナム戦争の敗北と言う歴史的

事実が多大な重石となっていたからでした。

 アラブにとって、英米はイスラエルと言う侵略国家を作った敵です。その感情と地上戦にうってでられない英米の状況を背景に、フセイン政権は徹

底抗戦を続けています。ここでは、戦争は国際紛争の抑止力にも解決手段にもなっていません。

 この戦争は、どうやったら終わるのでしょうか。それはフセイン政権の打倒、それもイラク人民の力での打倒か、世界を支配しつづけるアメリカが、

その内部のアメリカ人民の力で変えられることしかありません。しかしその第一の方法を実現するためには、武力で英米の手先と闘うと言う形で国

民の信頼を得ながら、その裏では様々な利権を私物化し利殖を貪っているフセイン一族のような独裁者を生む体質を持った社会にかわる「社会

像」を、イラク国民が持つ必要があります。「社会主義」がそれにかわる者であるはずなのですが、色あせたこの理想には、今やその力はありませ

ん(だいいちフセインの独裁体制は「社会主義」を標榜しているのですから)。そして第二の方法であるアメリカのアメリカ人による変革にも、アメリカ

を資本主義にかわる社会体制にかえる理想をアメリカ人が持つ必要がありますが、これも先と同じ理由で実現は、今のところ難しいです。

 したがって、この地域紛争を収める手立ては、今のところありません。いつまでも続く泥沼化した戦争だけです。儲かるのは国際的な武器商人だ

け。

 ユーゴ内戦も同様です。

 唯一、戦争が国際紛争の解決手段であるかのように見えたのは、第2次世界大戦でした。そしてそれが可能だったのは、この戦争が「民主主義」

を標榜した豊かな資本主義アメリカと「独裁と抑圧」しかない貧しい資本主義ドイツ・イタリア・日本との戦争であったからであり、アメリカの側に、民主

主義の名の下にソ連を始めとする各国共産党や植民地からの独立を求める各国の民族主義運動をも引き付けえたからこそ、アメリカは戦争という

手段をもって国際紛争を解決できたのです。

 しかもこれは、戦争が一面では資本主義の大国同士の闘いであったからであり、他の側面では、植民地を解放する闘いであったからです。それも

戦争という手段によってというより、その手段で植民地を必要とする資本主義を倒したあとに、アメリカが、その卓越した経済力によって、ヨーロッパ

や日本を、アメリカ的な資本主義に再編制できたからこそであり、同時にそのことで独立できた旧植民地諸国に対しても、その発展のための資金や

資材が、アメリカの圧倒的な経済力によって与えられたからこそ可能であったのです。

  しかし、第二次世界大戦以後は、「正義」を全面的に獲得する戦争は存在できません。

 なぜならこれ以後の戦争は、全てそのアメリカを盟主とする国際資本主義体制が、それが標榜する「豊かさと自由・平等」のスローガンに反して展

開する差別と抑圧から脱却しようとする旧植民地の人々がしかけた動きを抑圧する戦争ですから。

 アメリカなどの大国の側には、けして「正義」の旗は立てられることはないのです。正義は常に弱い方にありますから戦争ではつぶせないのです。

 ベトナム戦争は、この種類の戦争の先駆けでしたので、まだアメリカの側に「共産主義の拡大を防ぐ」という「正義」の仮面を与えました(でもベトナ

ムから見れば侵略であることは当たり前です)。対イラク戦争ではそれは何を守っているのか。石油の利権である事は誰の目にも明らかです。ユー

ゴ内戦では、ユーゴの国家主義が民族独立とあいまってヨーロッパに飛び火し、ヨーロッパ連合が頓挫する事を恐れてのことであることも明らかで

す。誰の目にもそれは、アメリカやヨーロッパが自己の利益のみを図った戦争である事は明白なのです。これでは、抵抗する側の士気は決して弱ま

る事はありません。際限ない泥沼の戦争が続くだけでしょう。

 イスラエルとアラブの紛争も同じです。イスラエルは、中東地域に戦争の火種を置き続け、対イスラエル戦争の名目で、アラブの地域に非民主主

義的独裁国家を存続させ、アメリカやヨーロッパが石油の利権を貪り続けることを可能にするために作られた国家です。そしてこのことは今や、中

東のアラブの人々にとっては自明なことであり、イスラエルとそれを支えるアメリカへの敵意は、同時にアラブの諸国政府への敵意となって広がって

おり、この敵意はアラブ全体に広がるとともに、イスラエル内部のイスラエル国籍を持ったアラブの人々にも広がっています。

 このためイスラエルは、かってのような全面戦争にはけしてうってでることはできません。もしそれをすれば自国が内部から崩壊する危険に直面し

ますし、一番の危険は全面戦争が、中東の全ての独裁政権の崩壊につながり、中東からアメリカ・ヨーロッパの利権を奪う政権が次々と出来あがっ

た時には、イスラエル国家の命運もつきてしまうからです。

 正義は、イスラエル・アメリカの側にではなく、アラブの側にこそあるのです。だから政治解決を考えたのですが、イスラエルがアメリカ・ヨーロッパ

の手先であるかぎり、イスラエルとアラブの共存は不可能ですので、和平は常に夢のまた夢になっていき、いつまでも紛争は続きます。そしてこの紛

争にアメリカが介入しようものなら、さらにこの戦争は泥沼化します。

 アメリカが第二次世界大戦後に行った全ての戦争は、自国が作り上げた世界秩序から外れようとした国々やその政府をつぶし、その国をアメリカ

中心の世界秩序に組み込み続けるための戦争。それは戦争に到った場合もあるが、多くは、クーデターやテロという形で起きている。

  正義を失った戦争。この事実がアメリカの軍隊に還流し、今や中堅将校の1割が毎年辞めて行くと言う状況に到っているのだとおもいます。

  戦争の問題は、一つ一つの戦争が何の爲になされたのかを冷静に分析して考えてみる必要があります。

  そして今や戦争は、アメリカの力が確実に衰退に向かっている現在、かえって矛盾を噴出させ、際限のない泥沼に落ちこむことを認識すべきで

す。


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