<泣く子と地頭には勝てぬ>D 侍はさぶらふ(従う)


教師:では授業を始めます。ここに書いてある「侍」ってなんだかわかりますか?。

生徒:「武士のこと!!!」

教師:良く知っていますね。そう。平安時代には武士とは呼ばずに「侍」といっていました。侍とはどういう意味の言葉かと言うと、「さぶらふ」という言

   葉から来ています。「さぶらふ」というのは「従う」という意味で、侍とは「従う人」という意味の言葉なのです。・・・ではここで問題です。この従う人

   というのは誰に従う人という意味なのでしょう。

生徒:「天皇!!!」「上級貴族!!!」

教師:正解です。・・・・でもなぜ天皇や上級貴族に従う人だと分かったのかな?。・・・・・はい。○○くん。

生徒:「はい。この時代には天皇や貴族が一番偉い人たちだからです。武士って武力を持った人たちですからその家来をやったのかなと思いまし

    た。」

教師:なるほど。一番えらい人の家来だと思ったわけですね。いいですね。・・・ではもう一つ問題。この時代、武士たちは天皇や上級貴族の家来に

   なって何をしたんだろうか?。考えてみてください。

(各自自分の意見をノートに書く)

教師:どうだろうか。・・・・では発表してもらいましょう。・・・・はい、△△くん。

生徒:「はい。僕は天皇や貴族のボディーガードをしたんだと思います。」

教師:なるほど。・・・・他には?。・・・・・・はい、○○さん。

生徒:「はい。武力をもった人たちですから、命令されれば戦争などもやったのではないかと思います。」

教師:なるほど。戦争ね。・・・・他にはどうだろう。・・・はい、□□くん。

生徒:「はい。殺し屋もやったのではないでしょうか。貴族の気に入らない人をやったりして。」

教師:なるほどね。

生徒:「どれが正解ですか?。」

教師:うん。どれも正解です。いろんなことをやったのです。・・・・ところで武士が貴族のボディーガードをしているという資料がありますので見てくださ

   い。(資料Cを配る)

 <泣く子と地頭には勝てぬ> 資料C  夜道のおとも (今昔物語より)

   今はむかし、関白藤原頼通どのが朝廷を自由にあやつって  おられたころ、三井寺の明

  尊僧正は天皇の寝室の横で明りもともさず夜のご祈祷を続けていた。

   しばらくすると関白殿はこの僧正に用を言いつけ、三井寺に今晩のうちに帰ってあらため

  てうかがえという命令をおだしになった。厩のものたちも驚いて急いで馬を用意し、すぐ乗

  れるように準備したところ、関白殿は、

   「僧正殿をお送りする。だれかいるか?」とお呼びになった。と、

   「致経がおります」と左衛門尉平致経が答えた。

   関白殿は「ちょうどよい男がいたわ」と思われ

   「僧正殿が、今夜三井寺に行ってすぐひきかえし、夜のうちにここに戻ってこれるよう、

  まちがいなくお供いたせ」と命じられた。

   致経はすぐに武器を取り、僧正殿の馬がひきだされる場所に出かけた。僧正どのが遅れて

  やってきて

   「おまえひとりだけか。それに三井寺までゆこうというのに、どうして歩いていくみたい

  に立っているのか。馬はないのか」と尋ねられた。致経は、

   「歩いていってもおくれるようなことはございません。」と答えた。

   僧正がたいまつの火を先頭に馬にまたがって2・3町(200〜300m)ほど行くと、

  突然夜の闇の中から黒っぽい影が二人、弓矢を持ってこちらに向かって歩いてきた。僧正は

  おそろしくなって体じゅうが凍りそうになったが、ふたりは致経をみると道端に手をつき

   「お馬をどうぞ」といい、致経に馬をすすめた。

   弓矢を持って馬に乗った武士がお供についたのだから、僧正も心強くなり、また2町ばか

  りゆくと、道端からさっきと同じように弓矢をおびた黒い影が二人出てきて、また道端に手

  をつく。今度は致経がなにもいわぬのに、ふたりとも馬にのってお供をした。

   僧正は「これも致経の郎等だったのか」と思いながらまた2町ばかりいくと、同じような

  人影が現れてお供につく。こうして賀茂川の河原を離れるころには30人ほどの大人数にな

  っていた。

   「おかしなことをするやつだ」と思っているうちに三井寺に到着。関白殿から命じられた

  仕事をすべて処理して、まだ夜中にならぬうちに引き返すことができた。

   今度は前後を致経の郎等に囲まれたようにして進んだから、僧正殿も安心して賀茂川の河

  原まで引き返すことができた。

   京にはいると、致経は何もいわなかったけれど、その郎等どもはさっき出てきたところに

  二人ずつ立ち止まったから、御所(天皇の宮殿)の2町ばかり近くになったときは、はじめ

  出てきた郎等二人だけになってしまった。致経は馬を下り、はいていた木靴をぬぎすてる

  と、さっさと徒歩で歩き出す。二人の郎等は主人の脱ぎ捨てた木靴をひろいあげ、馬を引い

  て闇の中へ消え去った。

   この致経は、平致頼という武士の子だった。父に劣らぬ勇猛な武士で、ふつうの人のおよ

  ばぬ特大の矢を射たので、世間では大矢の左衛門尉と呼んだと語り伝えられている。

教師:三井寺に行くには川や山を越えていかなくてはいけないんだ。当時は電灯なんかないから町の中でも真っ暗。だから河原や山に入れば怖いも

   のが出てくる。

生徒:「おおかみ!!!」「強盗!!!」「山賊!!!」

教師:そうだね。だから関白殿は致経に送らせたわけだけど、武士はこのようにすぐに主人の命令がわかるように側に仕えていたんだし、武士の家

   来もすぐ仕事ができるように、近くに控えていたんだ。・・・・・・・・

   ではここで今日の課題です。なぜ武士は上級貴族のボディーガード役になったのだろう。・・・自分の考えを書いてください。

(各自、自分の意見をノートに書く)

教師:いいかな?。・・・・では班にして班で討論してみましょう。

(各班での討論)

教師:では発表してもらいましょう。・・・・・・はい、5班。お願いします。

生徒:「はい。ご褒美が欲しいのだと思います。」

教師:ほう。全員一致ですか。なるほど。・・・・・・・・他には?。・・・・・・はい、2班。お願いします。

生徒:「はい。お金が欲しいのと、ご褒美に土地が欲しいのだという意見が出ました。」

教師:なるほど。ご褒美に土地ね。・・・・・・他には?。・・・・・・・はい、4班。

生徒:「はい。偉くなりたいのではないでしょうか。」

教師:どういうことかな。説明してください。

生徒:「上級貴族のために働けば貴族の位などをもらえると思います。それで家来になってボディーガードをしているんだと思います。」

教師:なるほどね。貴族になりたい。・・・・・・他にはどうだろう。・・・・・・はい。1班。お願いします。

生徒:「はい。やはりお金だと思います。お金をたくさんもらって贅沢な暮らしがしたいのだと思います。」

教師:贅沢な暮らしをしたいからたくさんお金が欲しい・・・・ね。なるほど。・・他には・・・はい、6班。

生徒:「4班に似ているんですが、上級貴族に何か御願いをしたいのだと思います。」

教師:何をお願いするのですか?。

生徒:「貴族の位など、偉くして欲しいというのもありますが、武士にとって邪魔な国司を何とかしてほしい、ということじゃあないでしょうか。」

教師:なるほど。国司をなんとかしろ。・・・・・・あとは・・3班はどうですか?。

生徒:「他の班と同じなんですが、やはりお金が欲しいのだと思います。お金をもらって贅沢な暮らしがしたいと。」

教師:なるほど。・・・多数意見はお金が欲しい、褒美に土地が欲しいですね。・・・・・・・これは全部間違いです。ご主人がお金や土地をくれるのでは

   なく、家来である武士がご主人の上級貴族や天皇に自分の土地をあげ、お金をあげるのです。

生徒:「えっつ、ほんとに?。」「なんで?。」「あっつわかった!!!」

教師:はい、××くん。

生徒:「はい。そのお金や土地はワイロだと思います。」

教師:なんのためのワイロですか?。

生徒:「はい。自分の位をあげて欲しいというワイロです。」

教師:どのくらいまで位をあげて欲しいのですか?。・・・・・・・もしくは誰よりも位をあげて欲しいのですか?。

生徒:「あっつ、わかった!!!」

教師:はい。□□さん。

生徒:「国司より上の位にして欲しいのだと思います。」

教師:それはどうしてですか?。

生徒:「はい。武士は国司にたくさん税をとられ苦しめられていました。だから国司よりも上の位になれば国司に税を取られたり乱暴されることはなく

   なるって思ったのではないでしょうか。」

生徒:「なるほど!!!」「それはありだよ!!!」「うまいこと考えるなあ。」

教師:そうだね。正解です。・・・・でも国司を抑えるためというのならばもう一つ上級貴族にお願いする方法がありますね。

生徒:「・・・・・・・・・・・・・・・・?。」

教師:ヒント。・・・・国司を任命したりやめさせたりできるのは誰でしたっけ?。

生徒:「わかった!!!!!」

教師:はい。××くん。

生徒:「上級貴族や天皇に頼んで、国司がたくさん税をとったり乱暴したりできないようにしてもらう。!!!」

教師:そう。正解です。それがねらいですね。上級貴族や天皇の家来になり土地をあげお金をあげてボディーガードまでしているねらいは。・・・・その

   あたりのことを図にしてみましたので読んでください。(資料Dを配布する)

教師:左の武士は上級貴族の家来にならなかった武士。これは農民と同じで国司に税を払わなくてはいけない。・・・右の武士は自分の土地をあげ

   て上級貴族の家来になった武士。この土地をあげて土地の持ち主になってもらうことを「寄進」と呼んでいる。・・・・なぜ寄進するかというと、上

   級貴族は二つの特権「不輸の権」「不入の権」を持っているので、国司に対して貴族の土地からの税の取りたてと立ち入りを禁じる事ができる

   からです。・・・・このような二つの特権をもった貴族の土地を「荘園」といいます。・・・わかったかな。・・・・自分の土地を貴族の荘園にしてもらっ

   た武士はその荘園の管理者「荘官=庄司」になり、荘園の入り口に看板を立てるんだね。

生徒:「どんな看板?。」

教師:うん。国司立ち入り禁止って書くんだ。・・・もっともその横に誰の名前を書くかが問題だけどね。

生徒:「ご主人の名前!!!」「上級貴族の名前!!」「荘園だって意味!!!」

教師:そう。そのとおり。こうして武士の土地に国司は入って来れなくなる。

生徒:「国司は何も出来ないんだ。」

教師:うん。このままじゃね。・・・・でも方法はある。・・・・国司も上級貴族の家来になるんだ。

生徒:「何ために?。」

教師:なんだと思う?。

生徒:「・・・・・・・?。」「わかんないなー!」「あっつ、わかった!!!」

教師:はい。□□くん。

生徒:「その上級貴族に頼んで武士のご主人の上級貴族をやつけてもらう!!」

生徒:「なるほど!!」「上手い手だ!!」

教師:そうです。ご主人を失った武士の土地に国司は・・・・?

生徒:「国司は入って税を取れる!!」

教師:もしそれを武士が断ったら?。

生徒:「ぼこぼこにする!!!」「殺す!!!」

教師:そう。だから上級貴族の家来になり土地をあげボディーガードをしているからといって武士は安心できないんだね。やっぱり最後に頼りになる

   のは?。

生徒:「自分の武力!!!」

教師:そうです。自分の武力。・・・・でも武力を使うってことは危険があるね。

生徒:「自分もやられる!!!」「死ぬ!!!」

教師:そうです。だからなるべく武力を使わないために、上級貴族に土地をあげてボディーガードをして守ってもらうんだよ。

生徒:「武士って悲しいね。」

教師:そうですね。・・・・・・・じゃあ、最後のまとめの問題をやってみよう。

○まとめ

@武士は【 1   】が税をたくさんとって行く事に苦しんでいた。

A武士は【  2   】の家来になって自分の土地を【  3  】し
 【  2   】の力で【  1  】が自分の土地に税をかけたり立
 ち入ったりできないようにした。

教師:できたかな?。・・・・じゃあ答えあわせをしよう。・・・・・【  1   】には何が入る?。

生徒:「国司!!!!」

教師:そうだね。・・・・では【  2  】は?。

生徒:「上級貴族!!!」「天皇!!!!」

教師:はい。正解です。・・・では最後の【  3  】は?。

生徒:「寄進!!!」「あっつ、そうか!!」

教師:はい。いいですね。・・・・・では今日の授業はこれでおしまい。


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