<泣く子と地頭には勝てぬ>E 南無阿弥陀仏


教師:さて今日の授業の題は、南無阿弥陀仏。なむあみだぶつと読む。・・・・・何の事だかわかるかな?。

生徒:「なんだっけ?。」「聞いたことあるな。」「お経みたいなもんじゃあないの?。」

教師:おっつ、いいね。近いぞ!。仏教の言葉でね、念仏と言うんだ。・・・・・意味はわかるかな?。阿弥陀仏ってのがひとつながりの言葉だ。

生徒:「阿弥陀仏って何ですか?。」

教師:仏様のことだよ。・・・皆は知っているかな?。人間が死んだ後に行く世界は二つある。

生徒:「天国!!!!」「地獄!!!!」

教師:うん。残念。仏教の世界では天国とは言わないんだよ。

生徒:「極楽!!!!」

教師:正解です。良く知っているね。正しくは極楽浄土。・・・そして死後極楽に行くか地獄に行くかは何で決まるの?。

生徒:「良い事をやったか、悪い事をやったか!!!!」

教師:そのとおりですね。悪い事をやったら?。

生徒:「地獄!!!!」

教師:正解です。・・・で地獄には誰がいるの?。

生徒:「閻魔大王!!!!」

教師:良く知っているね。・・・で地獄に行った人はその閻魔様に何かをいわなきゃならない。

生徒:「どんな悪い事をしたか全部言う!!。」

生徒:「全部言わなかったらどうなるの?。」

教師:どうなるのかな?。・・・誰か知っている?。

生徒:「舌を抜かれる!!!!」

生徒:「ひえっつ!!!いやだー!!!」

生徒:「地獄に行った人はどうなるの?。」

教師:うん。針の山を裸で登らされたり、両手両足を別々の牛に綱で結び付けられて別の方向に引っ張られたり・・・・・。

生徒:「痛そう!!!」「裂けちゃう!!!!」

生徒:「でも死んだんだから痛くないんじゃあないの?。」

生徒:「昔の人はそう信じたんだよ。」

教師:そうだね。地獄ってそういうところで、何度も何度も苦しめられ続けると考えたんだね。

生徒:「極楽ってどんなところですか?。」

教師:うん。花がたくさん咲き乱れ、食べ物もたくさんあって、生きていくためにあくせくしなくてもゆったり暮らしていけるところらしい。そこに阿弥陀仏

   が住んでおられるということだそうだよ。

生徒:「ほんとに極楽や地獄ってあるのかな?。」「行ってみたいな!!」「馬鹿!!!死んでから行くところだぞ!!!」

生徒:「戻れるんなら一度行ってみたいね!。」

教師:そうですね。・・・・・

生徒:「それで南無阿弥陀仏ってのはなんですか?。」

教師:そうそう・・・・・・・。これはね阿弥陀様にお願いする言葉なんだ。阿弥陀様、御願い!! 極楽に連れてって!!とね。

生徒:「へーっつ」「そうか?。」

生徒:「阿弥陀様ってどんな仏なんですか?。」

教師:うん。どこかに写真があったな。・・・・・・あったあった。資料集p39を開けてご覧。

教師:平等院鳳凰堂の阿弥陀仏だ。この建物と庭は極楽浄土を想像して作ったんだそうだよ。

生徒:「へえーっつ」

教師:ところで、平安・鎌倉時代の武士の家にも、この阿弥陀様に関係した建物があったんだけど覚えているかな?。

生徒:「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

教師:ではもう一度、資料集のp48の武士の家の絵を開けてください。

教師:さあ。阿弥陀仏に関係した建物があったかな?。・・・・・・・

生徒:「あった!!!」「持仏堂!!!!」

生徒:「持仏堂って何だ!!!?。」

生徒:「仏像や位牌を置いた小屋って書いてあるだろ!!!」

生徒:「あっつ、ほんとだ!!!」

教師:そう。持仏堂。仏像や先祖の位牌を置いて拝んだ部屋だね。・・・・この仏像はほとんど阿弥陀様だったんだよ。・・・・今日の学習は、なぜ武士

   が毎日、持仏堂で阿弥陀様を拝んでいたのかを考えてみたいと思います。・・・そこで参考になる資料を配ります。(資料6を配布する)

  <泣く子と地頭には勝てぬ>  資料E  悪人往生 (今昔物語より)

  今はむかし、讃岐の国(香川県)の多度郡のある村に、源大夫とよばれる武士がいた。この

 男は乱暴で腕力は超人的、弓を射ても刀を振るってもかなうものがなかった。自分の村だけで

 はなく隣の村の百姓からも、米や布や干しあわびなどをむりやりとりあげて都の天皇や大臣た

 ちのところへせっせと贈り物をしてほめられ、五位の位(貴族の位)を授かり、大夫(―五位

 の貴族をこうよぶ)とよばれるようになった。国府の役人よりもえらくなったわけで、国中に

 源大夫に逆らうものは一人もいなかった。

  この男は村のならずものを手下にして、毎日、朝から晩まで山野・河川をかけまわり、鳥や

 獣や魚をとってはその体を引き裂き、血のしたたる肉をさかなに酒をのみ、あげくに

   「だれか歌え。女をつれてきて踊らせろ。」と手下に命じた。

  手下は村をまわって若い女を無理やり引っ張ってくるのだが、親兄弟や夫がさからえば、鹿

 やイノシシと同様に、矢で射殺したり、首を切って平気だった。

  

  ある日、源大夫の一行が山から帰ってくる道端のお堂で、たくさんの人が集まっていた。

  「なんだ、あれは」と源大夫がたずねると、

  「これはお堂で、お講がおこなわれているところでございます」とけらいが答える。

  「お講とはなんだ」

  「坊様がみ仏の前でお経を読み、み仏の教えを説いてくださる、ありがたいことでございま

   す。」

  「そうか。坊主がどんなことをぬかしよるか、ちょっと行って聞いてみよう。」

  源大夫は馬から飛び降りるとずかずかお堂に入っていき、講師の坊さまの前にどっかと座

 り、坊さまをにらみつけた。

  「おまえはなにをしゃべっていたんじゃ。おれの心にもっともっと納得のゆくことを聞かし

 てくれ。さもなければかわいそうだが…・」

  といいながら、腰にさした刀のつばをたたいてみせた。

  坊さまは震えながらこう答えた。

  「ここからはるか西の世界に、阿弥陀仏というみ仏がいます。このみ仏は御心がひろく、長

  年罪を重ねた人でも、『南無阿弥陀仏』といっぺん唱えれば、必ずその人を許して、極楽に

  生まれ変わらせてくださります。」と。

   

  この話を聞いた源大夫は、いきなり刀をぬいて髻(髪を結った所)を根元からばっさり切り

 落としてしまった。そして突然のことにうろたえる家来たちに「もう家来はいらん。どこへで

 も行け!」というと、自分で湯をわかして頭を洗い、坊さまに命じて頭をそりあげてもらい、

 坊主にしてもらった。

  そして白い服と袈裟に着替え、もっていた刀と矢もすて、金属でできた太鼓を首にかける

 や、あきれている人々にいった。

  「おれはこれから西にむかって阿弥陀仏をお呼びし、み仏のお答えが聞こえるところまで行

  こうと思う。お答えがないかぎり、野山だろうが海川だろうがぜったいに引き返すまい。ひ

  たすら向かった方向へ進んでいくぞ」

  といいおわると、声を高く上げて

   「阿弥陀仏よ、おーい、おーい」

  と太鼓をたたいて歩き出し、そのまま西へ向かって行ってしまった。

   何日かのちの日の暮れるころ、あるお寺にからだじゅう傷だらけの坊さんが、立ち寄り、

  寺の住職にこう言った。

   「おれはみ仏のお弟子になって、阿弥陀仏のお声を聞こうと、ここまできた。この西のほ

  うに高い山が見えるが、今からこの山を越えていこうと思う。7日たったらおれのいるとこ

  ろを尋ねてくれ。道々に草を結びつけて目印をつけていくから。ぜひ見にきてくれ」と。

   住職が「承知しましたが、もう夜になりましたから、今夜一晩でもお泊りになっては」と

  いうと

   「せっかくだが…、なにか食べ物はござらんか。ほんのちょっぴりいただけないか」とい

  うので、

   住職が干し飯をひとつかみ与えると

  「多すぎるわ」といってごくわずかばかりを紙に包み、夜の闇の中に姿を消した。

   この坊さんは源大夫だったという。

教師:これは今昔物語という、平安時代のいろいろなお話しを集めた本にのっている有名なお話し。・・・源大夫というのだから、この人は源のなにが

   しという武士だったんだね。どうやって大夫、つまり五位の貴族の位を得たかと言うと?。

生徒:「都の天皇や貴族に贈り物をした!!!」「ワイロだ!!!」

教師:そうだね。ワイロ。そしてそのワイロにしたものはどうやって手に入れたの?。

生徒:「百姓から取り上げた!!!!」

教師:そうですね。源大夫はすごい乱暴者で、人々から税を余分にまきあげたり平気で乱暴していたわけです。その源大夫がお坊さんの話しを聞い

   たらとたんに坊主になって旅に出てしまったというお話。・・・・さて問題です。なぜ源大夫は突然坊さんになってしまったのだろう?。・・・・自分の

   考えを書いてみてください。

(各自の意見をノートに書く)

教師:自分の考えは書けたかな?。・・・・・・じゃあ、班にして討論してみてください。

(各班での討論)

教師:では発表してもらいましょう。・・・・・・はい、4班。

生徒:「はい。源大夫は、自分が悪い事をしていて地獄に行くしかないと思っていたら、お坊さんが南無阿弥陀仏と一度唱えれば極楽に行けると言っ

    たので、嬉しくなって嬉しくなってしまったのだと思います。」

教師:なるほど。嬉しくなったね・・・・。・・・・・はい、2班。お願いします。

生徒:「はい。源大夫は、今までの自分の生活を止め、もう一度違う人生を送りたくなったのだと思います。」

教師:なるほど。違う人生を送りたいね・・・・。はい、5班。

生徒:「似ているんですけど、源大夫は今まで自分がしてきたことを反省して、阿弥陀さまに許してもらおうとして坊さんになったのだと思います。」

教師:なるほど。許して欲しいね。・・・・・・・他には?・・・・。はい1班。

生徒:「はい。阿弥陀様が好きになったのだと思います。」(爆笑!!!)

教師:どういうことですか。詳しく説明してください。

生徒:「はい。地獄に行くしかないと思っていたら南無阿弥陀仏と一度唱えるだけで極楽に連れてってくれるというので、阿弥陀様を大好きになったん

    だと思います。それで会いたくなったんだと思います。」

教師:なるほど!!!。阿弥陀様に恋をしたんだ。

生徒:「阿弥陀様って男?、女?。」

教師:さあどっちなんだろうね?。

生徒:「さっきの写真を見ていると男だと思うよ?。」「いやだ!、男が男に恋をするの!!!」

教師:うん。どうなんだろうね。・・・・・・・他に意見はあるかな?。・・・・・はい、6班。

生徒:「源大夫は人生をやり直したくなったんだとおもいます。理由は、悪い事ばかりしてきた今までの事を反省したんだと思います。」

教師:なるほど。人生のやり直しね。・・・・・・・あとは3班かな?。

生徒:「はい。全部言われてしまったんだけど、源大夫は極楽に行きたいと思っていたのが実現しそうになって嬉しくなったのだと思います。」

教師:そうか。源大夫は極楽に行きたかったんだ。でも行けないと思っていたんだね。理由は?。

生徒:「悪い事ばかりしていたから!!!」「人殺しをした!!!」「人のものをとった!!!」

教師:そうだね。でも南無阿弥陀仏と唱えれば・・・・

生徒:「極楽に行ける!!!!」

教師:だから嬉しくなったわけだし、阿弥陀様を好きになったわけだし、許してもらえるとおもってお坊さんになって、阿弥陀様に会いに行ったんだね。

   そしてお坊さんになった源大夫は、今までの源大夫とは・・・・?

生徒:「違う!!!」「人が変わった!!!」

教師:そうだね。お寺の住職さんに対する態度なんかまるで別人だ。・・・源大夫は違う人生を送り始めたんだね。

生徒:「源大夫は極楽に行けたんですか?。」

教師:うん。行けたそうだ。・・この話しには続きがあってね。お寺の西の山を越えた源大夫は、その西の海岸の松ノ木に登って阿弥陀様の名前を呼

   び続けたそうだ。そして尋ねて来た住職さんに、阿弥陀様の声を聞けたと話したそうだ。そして、その後も阿弥陀様を呼びつづけ、松ノ木の上で

   死んだそうだ。その死に顔は笑ったようで、あたりにはとてもよい匂いがしていたので、人々は源大夫は極楽に旅だったと信じたそうだよ。

生徒:「へーっつ、良かったね!」

教師:うん。そうだね。・・・・ではこの源大夫の話しを参考にして、次の問題を考えてみよう。出家せずに、つまりお坊さんにならずに武士を続けたま

   ま、自宅で仏に祈った武士は、どのような気持ちで何を祈ったのだろうか?。自分の考えを書いてください。

(各自、自分の考えをノートに書く)

 

教師:では発表してください。・・・・・・はい、□□くん。

生徒:「はい。戦いで死にたくないよ!!!と祈っていたのだと思います。」

教師:なるほど。死にたくない。・・・・・他には?。・・・・・はい、○○さん。

生徒:「はい。毎日、極楽に連れてってと祈っていたんだと思います。」

教師:どうしてそう祈ったのですか?。

生徒:「はい。武士は戦いでたくさん人を殺しているわけじゃあないですか。御仕事でしょうがないのですが、これじゃあ地獄行きでしょ。だから地獄に

   は行きたくないから、極楽に連れてってと祈っていたんだと思います。」

教師:なるほど。人殺しをしてるけど地獄には行きたくないのね。・・・・・他には?。・・・・はい、××くん。

生徒:「はい。出世させてくれ!!!と祈っていたんだと思います。」

生徒:「阿弥陀様ってそういう神様か?。」

生徒:「極楽に連れて行くのが阿弥陀様の仕事だろ!!」

生徒:「神様ってなんでも御願い聞いてくれるんじゃあないのか?。」

生徒:「それぞれの専門ってのがあるんじゃあないの。合格祈願とか、安産とか、縁結びとかさ。」(爆笑!!!)

教師:なるほどね。神様にも専門がある。そうかもね。・・・・他には?。・・・・ないみたいだね。・・・・では3つの答えのうちどれが一番良いと思います

   か。聞いてみます。・・・『死にたくない!!』が良い人!!!(数人)。『極楽に連れてって!!!』が良い人(圧倒的多数)『出世させて!!』

   が良い人!!!(一人)(爆笑!!!)

    つまり、武士は毎日阿弥陀様に南無阿弥陀仏と祈っているわけだが、それは今自分が武士としてやっていることをどうしてくれと言っている事

   なのかな?。

生徒:「助けてくれ!!!」「許してくれ!!!」「もうやめさせてくれ!!!」

教師:そうだね。つまり武士は人殺しと言う仕事を・・・?

生徒:「やりたくない!!」「反省している!!!」「やめたい!!!」

教師:そういうことですね。

生徒:「武士って可哀想だね。」

教師:そうですね。・・・・・じゃあ、ノートのまとめの問題をやってみよう。(各自答えを考える)

○まとめ

【     】でも南無阿弥陀仏と唱えれば【    】に行く事ができるという教えは

、仕事で生き物を殺さねばならない【     】や【     】などに広まっていった。

教師:ではいいかな。・・・・よし、最初の【   】は何が入る?。

生徒:「悪い事をした人!!!」「悪人!!!」「罪人!!!」「誰でも!!!!」

教師:そう。悪人でも誰でもでも良いね。・・・・次の【    】。どこへ行けるの?。

生徒:「極楽!!!!」「極楽浄土!!!」

教師:はい。正解です。・・・では最後の二つの【    】は?。

生徒:「武士!!!」「わかんなーい!!!」

教師:うん。武士はいいね。人間と言う生き物を殺す仕事。・・・ほかに生き物を殺す仕事ってある?。

生徒:「漁師さん!!!」「猟師!!!」

教師:そう。魚や獣ね。・・・・他には?。

生徒:「山賊!!!」「海賊!!!」「強盗!!!」(爆笑!!)

教師:うん。これも人間と言う生き物を殺す仕事だね。

生徒:「強盗って仕事か?。」「仕事だろ」「それで金を稼いでいる!!」

教師:そうだね。・・・・他にはもあるでしょ?。

生徒:「あっつ、魚屋さん!!」「肉屋さん!!!」「八百屋さん!!!」

生徒:「やさいとか果物は生き物か?。」

生徒:「生物じゃん。」

教師:そう。生物だね。・・・ということは野菜や果物を作って売っているひと・・・?

生徒:「農民!!!」「お百姓さん!!!」

生徒:「なんでや?。生物殺しているか?。」

生徒:「野菜も生物じゃ!!」「薬で虫も殺すだろ!!!」

教師:そうだね。虫も殺す。・・・・他には牛や馬を殺してその皮をいろんな道具なんかにする人も入るね。

生徒:「じゃあ、いっぱいいるんだ。」

教師:そうだね。仕事で生物を殺さねばならない人はたくさんいる。・・仏教では生物を殺す事がたくさんある罪の中でも一番重い罪だったんだ。だか

   らこう言う人たちの間に南無阿弥陀仏は流行ったわけだ。・・・・これで今日の授業は終わります。


授業2000に戻る 次の授業を読む