<地獄の沙汰も金次第>D「神仏などくそくらえ」


教師:さて今日の授業は・・・(授業の題のフリップを貼る)

生徒:「くそくらえってなんですか?」

教師:そうだね。どんな意味だと思う?。

生徒:「くそって、うんこの事ですか?。」

教師:そうだよ。

生徒:「うわーっつ!! うんこ食え!!ってこと?。」

教師:そう。うんこでも食ってろって言って、相手に投げつける・・・・・。

生徒:「やだー!!!!」

教師:うん。・・・・だから、うんこを食えって言って、あいてにうんこを投げつけるっていうことは、その相手をどう思っているかというと?・・・・。

生徒:「どうでもいい?。」「あっちいけ!!!」「お前なんかいらない!!!!」

教師:そう。そういうことだね。・・・・ということは、神様や仏様なんか・・・・・・。

生徒:「いらない!!!!」「信じない!!!!!」

教師:そのとおりです。・・・神様や仏様なんかは信じない、どうでもよい、という意味の言葉なんですね。・・・・・こんなことを言う人間は鎌倉時代から

   室町時代にかけて出て来たわけだけど、今日は、そういう人はどんな人で、どうして現れたのかということを考えたいと思います。

    まず最初に、この言葉の意味を考えてみましょう(『悪党』と板書する)

   この悪党とはどんな人たちのことを言うのだろう。・・・・まず、自分の考えを書いてみてください。

(各自ノートに、自分の考えを書く)

教師:では、発表してください。・・・・・・・・はい、■■くん。

生徒:「はい。悪い事をするやつのことを悪党というのだと思います。」

教師:なるほど。悪い事をする人・・・・ね。・・・・はい。○○さん。何ですか。

生徒:「はい。今の■■くんの意見に付けたしです。人殺しとか強盗をする人のことだと思います。」(同じでーす!!!の声)

教師:もしかして、みんな同じ答えかな?。・・・・・悪い事をする人と考えた人!!!(ほとんど全員が手を挙げる)

教師:なるほど。・・・じゃあ、悪い事っていうのは、人殺しや強盗で良いのかな?。・・・・・はい、××さん。

生徒:「家に火をつけるのも入っていると思います。」

生徒:「はい!。まだあります!!!!」

教師:はい。△△くん。

生徒:「はい。他の人の年貢や領地を盗るのもあると思います。」

生徒:「そんなのありか?。」

生徒:「この前やったじゃないか。泣く子と地頭には勝てぬの授業で。」

生徒:「あっそうか!!!・・・・で、これで正解なの?。」

教師:うん。・・・・・教科書にきちんと悪党とは何かを書いてあるので、それを読んでみよう。・・・教科書p75を開けて、そこの悪党の説明を読んでみ

   よう。

○教科書の説明:

 ■悪党  さらに幕府に深刻な打撃を与えたのは、荘園・公領のわくをこえ集団で自在に移動し、

  金品をうばい、年貢をよこ取りする武士の増加である。幕府は彼らを悪党とよび何度も禁令で

  取りしまったが、近畿地方を中心に全国的に増えていった。

教師:悪党ってどんな身分の人?。

生徒:「武士!!!」

教師:そう。・・・で、何をする武士のこと?。

生徒:「金品をとる!!!」「年貢を横取りする!!!」

教師:そうだね。・・・・・で、この時代の年貢って誰のものになるんだっけ?。

生徒:「武士!!!!」「貴族!!!!」

教師:どっちが正解?。

生徒:「貴族!!!」

生徒:「ほんとに?。」

教師:うん。・・・この時代は土地は誰のものだったかというと?。

生徒:「貴族!!!」「天皇!!!!」

教師:そうだね。・・・・そこに住む農民や商人が、貴族や天皇に納める税金が年貢だ。・・・そしてその年貢を集めて都に持っていく係が?。

生徒:「武士!!!!」

教師:そう。正解。・・・で、鎌倉時代以後は、その武士は天皇や貴族のものになる年貢を全部都に納めるのではなく、その一部を自分のものにして

   良いことになっていたね。

生徒:「兵糧米!!!!」「よく覚えてるなー!!!」

教師:そう。兵糧米。・・・・その兵糧米や年貢を横取りする武士がいて、それが悪党とよばれたんだね。・・・・兵糧米や年貢をとられたということは、

   何をとられたのと同じかな?。

生徒:「・・・・・・・・・・?」「わかった!!。領地だ!!」「土地だ!!!」

教師:そう。領地をとられたのと一緒だね。・・・こうして他の武士や貴族や天皇の領地を奪ってしまう武士たちのことを悪党とよんだんだ。

    ・・・・で、悪党って、こんなことをしたんだね(資料F「神社を襲う悪党」を配る)

資料F 神社を襲う悪党たち

   絵巻「春日権現記絵」より

   @1301年10月25日。春日大社に押し入った
    悪党たちは乱暴のかぎりをつくす。

 A神前のお神酒を奪って暖をとり
      B 神鏡14枚をすべて奪いとっていった。

 C 春日大社・興福寺の軍勢があとを追い、
  悪党の大将の一人、池尻若王左衛門尉
  家政を討ち取り、神鏡3枚を奪い返したが
  残り11枚は持ち去られてしまった。

教師:春日大社というのは、奈良県一の神社で、貴族の藤原氏の神を祭った神社なんだね。そこに悪党が大勢で押し入って、神鏡、つまり神さまの

   かわりとして人々が長い間敬ってきた鏡を全部奪い取っていったというお話し。・・・神社というのは神さまのいる神聖な場所で、ここに入るには

   体をきれいな水で洗って清めてからしか入れないのだが、悪党たちは鎧兜を着たまま押し入り、神様に御備えしたお酒まで飲んでしまうんだ。

    普通はこんなことしたら神様がお怒りになって罰をうけると考えるのだけれど、悪党たちはどう思っているかというと・・・・・?

生徒:「信じてない!!!!」「くそっくらえ!!!!!」

教師:そうだね。神様なんか信じてない。酒を飲んで神さまのかわりの鏡14枚全てを奪って行った。あとで気がついた春日大社の人たち、この人たち

   も武士なんだけど、軍隊を出して悪党を追いかけて、やっと3枚は取り返したけど、11枚は持っていかれてしまった。

    ところで悪党たちは鏡をとってどうするっていうんだろう?。

生徒:「売る!!!!」

教師:そうだね。売る。・・・・神鏡というのだから立派な鏡で銅で出来ていて、裏に宝石なんかがはめてあるんだろうね。・・・どこで売るの?。

生徒:「市場!!!!」

教師:売れるかな?。

生徒:「売れる!!!」「すぐつかまる!!!!」

教師:どうしてつかまるの?。

生徒:「指名手配!!!」「御宝だから、きっと特徴なんか書いて手配されて、見つけた人には何百万円という話しになっていると思う。」

教師:なるほど。・・・・じゃあどうする。市場に持っていけばつかまる。

生徒:「隠しておく!!!」

教師:なるほど。・・・みんなが忘れるまで隠しておいて、あとで市場で売るわけだ。・・・他には?。

生徒:「壊して、宝石をとって、宝石だけ売る!!」

教師:うん。うまい手だね。・・・壊して宝石だけにしてしまえば誰にも分からないというわけだ。

生徒:「ほんとのところはどうしたの?。」

教師:うん。この絵巻によると、悪党たちは鏡を隠しておいたらしい。

生徒:「それでみつかったの?。」

教師:うん。地面の中や山の中の人のこないお寺なんかに隠しておいたら、自然に鏡が輝き出し、遠くからもその光りが見えて、全部発見されたとい

   うお話しだ。

生徒:「ほんと?。」

教師:うそ(爆笑!!!)。・・・・まあそれくらい春日大社の神様は大きな力を持っているというお話しにしてしまったんだね。悪党に鏡をとられて、そ

   れを取り返したというのは、本当の話しらしいけど。

    つまりこの話しでわかることは、悪党とよばれる武士たちは、神や仏も信じていないということだね。

    ところでみんなは悪党の『悪』という言葉はどんな意味にとった?。

生徒:「悪い事!!!!」

教師:そうだね。悪いって意味にとったね。・・・・・でもね、平安時代や鎌倉時代にはこの言葉には違う意味があったんだよ。

生徒:「どんな意味?。」

教師:うん。・・・・・強いとか、怖いとかいう意味があったんだね。・・・だから人の名前にも使われていたんだよ。・・・たとえば、『悪源太義平』。

生徒:「誰?。それ?。」

教師:うん。・・有名な源頼朝の御兄さんだよ。

生徒:「兄貴?。」

教師:そう。兄貴。頼朝は三男なんだけど、長男が義平。・・・源太は源家の長男、太郎という意味なんだね。そして悪源太というのは、とても強い恐

   ろしいほど強い男っていう意味なんだ。

生徒:「へえー!!」

教師:そして彼はその何のとうりに強い男で、彼の持つ弓は10人の男が総がかりで弦をはったという強弓で、それで難なく射てしまうというツワモノ

   だったそうだ。さらに彼は彼の父の源の義朝が都にいる間に、彼の領地である鎌倉の隣の伊勢神宮の領地である大庭の荘という荘園に多数

   の家来を率いて押し入り、その地の年貢を掠め取ったそうだ。

生徒:「悪党じゃん!!」

教師:そう。悪党のはしりだね。・・・そして何度も押し入ってそのうちの大庭の荘を乗っ取ってしまったそうだ。

生徒:「ますます悪党だ。」(爆笑!!!)

教師:そう。本物の悪党だね。伊勢神宮というのは天皇家の祖先神を祭った神社で大きな力を持っていたのだけど、それを怖れないでその荘園を

   乗っ取ってしまう。伊勢神宮がなんども朝廷に抗議して、朝廷も悪源太義平を指名手配して逮捕するように国司に命じたのだけど、手を出す者

   は誰もいなかった。

生徒:「怖いんだ。」

教師:そう。誰も捕まえられないほどのツワモノだったんだね。

生徒:「結局この人はどうなったの?。」

教師:わずか19歳で死んだんだ。

生徒:「えっつ、何で?。」

教師:平治の乱で源義朝が平清盛を追い落とそうとして失敗したね。この時義平はわずかな手勢を率いて、その10倍もの人数がいる清盛軍と闘

   い、そこで討ち死にしたんだよ。

生徒:「すごく強いのに?。」

教師:そうさ。いくら強くっても何十倍の敵に囲まれてはね。・・・でも彼が奮戦したお陰で弟の頼朝はその場から逃げる事ができて助かったんだ。

    義平がいなければ、後の鎌倉幕府の将軍、頼朝はいなかったのさ。

生徒:「なるほど!!!」(爆笑!!)

教師:このように「悪」という字には強い・怖いという意味が込められていたんだね。・・・・ということはさ、悪党の意味がわかってくるね。

   さっきの教科書の説明を読み返してみよう。・・・・悪党って誰がつけた言葉?。

生徒:「幕府!!!!」

教師:とういことは、幕府は彼ら悪党のことを・・・・・・?。

生徒:「恐れていた!!!」「怖がっていた!!!!」

教師:そう。そういうことだね。・・・・・・この悪党の代表的な人物の一人が、さっきの絵巻にのっていた池尻若王左衛門尉だ。そして彼以上に有

   名な悪党が、教科書にものっている楠木正成だね。

生徒:「鎌倉幕府を亡ぼした人?。」

教師:そう。その楠木正成。彼は河内の国、今の大阪府のあたりの荘園を荒らしまわっていた有名な悪党で、とても戦い方もうまいらしいね。

生徒:「どんな戦いをするの?。」

教師:うん。太平記という本によるとね、正成が鎌倉幕府を倒せと叛旗を翻したとき、彼のたてこもる城に攻め寄せた幕府軍はびっくりしたそうだ。あ

   まりに城が粗末で小さいのでビックリした。そして「簡単につぶせる」と思って総攻撃した。

生徒:「簡単につぶせたの?。」

教師:いや、その反対。・・・・・幕府軍が崖をよじ登って行くと、上から大きな岩がゴロゴロと落される。お陰で登っていた幕府がたの武士は?。

生徒:「つぶされる!!」

教師:そう。つぶされる。それで今度は用心しながら登って行くと、上からにゅーっとながい柄杓が伸びてくる。何かなって思っていると、いきなりその

   柄杓で、グラグラに煮えたぎった油が、頭の上からかけられる。(うえっつ熱そう!!!)

    そればかりではなく熱湯やうんこや小便までもがかけられる。(ひでーっつ)

   さんざんな眼にあった幕府軍は、今度は城を囲んで食料も水も入らないようにして、正成たちを飢え死にさせようとした。(うまい手だ!)

   そして食料もなくなったのかいくら下から攻めても反応がなくなったので攻めてみると、なんと城はもぬけの殻。

生徒:「えっつ、なんで?。」

教師:うん。兵隊だと思ったのは藁人形に鎧や兜を着せて、武器を持たせて立てておいたもの。・・・・その間に正成たちは裸になってこっそり山を降

   り、隣の山に移ってそこに城を築いて、また戦うというわけ。(賢いな!!)

    こうして幕府の大軍が正成一人にかかりっきりになっている間に、他の人が鎌倉を攻め落として、幕府は亡びたというわけだ。

生徒:「悪党ってすごいね!!」

教師:うん。すごいね。・・・・・じゃあ、最後の問題に移ろう。「なぜ悪党と呼ばれる武士があらわれたのだろう」。鎌倉時代がどんな時代だったのかを

   考えて、答えてください。

(各自ノートに自分の意見を書く)

教師:いいかな?。じゃあ時間がなくなってきたので、直接みんなの意見を聞いてみよう。・・・・・はい、△△さん。

生徒:「はい。私は、生活に困って借金する武士が増えてきたから、お金が欲しくて人を襲ったり、人の領地を襲ったりしたんだと思います。」

教師:なるほど。借金に苦しんで、ですか。・・・はい。同じ意見の人!!。(多数、でも違う意見もありそう) じゃあ、○○くんは違うのかな?。

生徒:「はい。似てるんですけど、人に領地を取られたりして、生活に困った武士が悪党になったのだと思います。」

教師:なるほどね。・・・・・他には?。・・・・・・はい。■■さん。

生徒:「はい。私は、この時代はお金さえあれば何でもできる時代だから、だからお金のためにはなんでもするという武士が現れ、それが悪党と呼ば

    れたんだと思います。」

教師:なるほど。金さえあれば何でもできる世の中が悪党を生んだのだと。・・・・同じ意見の人!!(何人かいる)。・・・なるほどね。・・・はい。

    △△くん。

生徒:「つけたしですが、この時代に武士が強くなって鎌倉幕府をつくり、政治を動かすようになったので、天皇や貴族の力がすごく弱くなったと思い

    ます。だから天皇や貴族なんてたいしたことないと思う武士が増えてきて、その人たちが勝手に天皇や貴族の領地を襲って、それを取ったり

    したんだと思います。」(なるほど!!!)

教師:なるほどね。・・・・天皇や貴族の力が弱くなったから、その領地を取ろうとする武士が現れ、それが悪党と呼ばれるようになったというわけだ

    ね。・・・・・・うん。だいたいこれでいいかな?。・・・・じゃあ、最後にまとめの問題をやろう。(各自問題にとりくむ)

○まとめ

 鎌倉時代の中ごろになると他の者の【 @ 】や【 A 】を奪い取る武士があらわれ

【 B 】と呼ばれた。この人々は【 C 】の禁止令も無視し、神仏をも恐れず、しだい

に無視できない力を持つようになった。

 この背景には【 D 】さえあれば何でも買える世の中の成立と、【A】を失った武士が

たくさん出たことがある。

教師:じゃあ、いいかな?。・・・・では、@はなんだろう。

生徒:「金品!!!」「お金!!!」

教師:じゃあ、Aは?。

生徒:「領地!!!!」

教師:そうだね。領地。・・・・ではBは?。

生徒:「悪党!!!」

教師:そう。正解。・・・・・じゃあ、Cは何?。

生徒:「幕府!!!!」

教師:そのとおり。・・・ではDは?。

生徒:「お金!!!!!」

教師:よし。正解。・・・・・・じゃあこれで今日の授業を終わります。


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