パンドラの箱は開かれた!C 神と墓と奴隷A


教師:では今日は前回やった「文明の共通点」を、もう少し深めてみたいと思う。最初に復習として、文明の共通点、つまり特徴をあげてみよう。

生徒:「王と奴隷などの身分がありました」

教師:そうだね。他には?。

生徒:「どこにも文字がありました」

教師:そうだ。その通り。他には?。

生徒:「どこにも水に関係する建物や建築物があります。」

教師:そうです。水に関係するもの。具体的には何でしたっけ。

生徒:「洪水に備える堤防!」「水道を引いた!」「下水道もあったよ!」「かんがい用水路もあった!!」

教師:そうです。ところでみんなに質問だけど、どうして文明には水に関係した建物や建築物があり、また多くの文明は水があるところにつくられたの

   だろうか?。

生徒:「はい。水は生きていくために必要だからです。」

教師:生きていくために必要ってことは、具体的には何に水を使うのだろうね。

生徒:「飲むためです。」「人間の身体は70%以上が水だと聞きました。だから水を飲まないと生きていけないから。」

教師:なるほど。でもそれだけかな。それなら他の動物とも同じだね。動物がやらないことに使わないのだろうか?。

生徒:「食べ物を育てる?。」

教師:具体的にはどういうこと?。

生徒:「畑を耕して、種をまいて。それから育てて収穫するのに水が必要です。」

教師:なるほど。つまり何をすること?。

生徒:「農耕?。」

教師:そう。農耕です。人間だけだよね。自分の食物を育てるのは。でもそれには水がいる。だから川のそばに住むわけだ。でも川のそばは怖い。

生徒:「洪水がきます」「洪水で畑も村の流されてしまう。」

教師:そう。だからそれを防がないと農耕のやって暮らして行く事はできない。どうやって防ぐの?。

生徒:「堤防をつくって洪水に備える!!」

教師:そうです。でも大きな洪水は堤防をも越えてしまうことがある。それに昔のエジプトでは洪水が運んでくる肥料に富んだ土が農耕を行う上でとて

   も大切だった。つまり、洪水を予測しておく必要があったんだ。どうやって予測できる?。

生徒:「・・・・・・・・・・・・・・?」

教師:洪水っていつも起こるのかな。一年中洪水の危険ってある?。例えば日本だったらいつ洪水は起きる?。

生徒:「梅雨!!」「台風のとき!!」

教師:つまりどう言うときかな?。

生徒:「雨がたくさん降るとき!!」

教師:そうだね。そしてその雨がたくさん降るときは種まきの季節であり、田畑の雑草をとる季節であり、もうすぐ収穫の実りの秋でもあるわけだ。そ

   ういう季節と言うものを知るために人間が作り出したものは何だろう?。

生徒:「・・・・・・?。」「あっつ、カレンダー?。」

教師:そう。カレンダー。暦だ。

生徒:なんで、カレンダーで季節が分かるの?。

教師:例えば日本で雨が多い梅雨って言うと何月から?。

生徒:「6月!!」

教師:そうです。梅雨は6月から7月の末。そして春の長雨は4月の中ごろから末。さらに秋の長雨は9月の中旬。こんな風に季節の変化はカレンダ

   ーの月で言う事が出来る。今のカレンダーには春分の日とかしか書いてないけど昔の暦は種まきの時期とか草取りの時期とかそう言うのがカ

   レンダーの中に書いてあったんだ。ところでこういういつが梅雨でいつが春の長雨なんて、どうやってわかったんだろうね。

生徒:「記録したの?。」

教師:何をつかって?。

生徒:「鉛筆!!」「紙!!」「筆!!」「墨!!!」

教師:それは記録する道具だね。道具じゃあなくて、記録するのになくてはならないもの・・・・?。

生徒:「文字?。」

教師:そう。文字です。文字ってそう言う事を記録するために考えたんだね。最初は絵だったんだけど。そして雨の多い季節や洪水の多い季節をそ

    れと一緒に木々などの自然の変化や川の水の量の変化。そしてその時々の星の位置や何かを記録して行ったんだね。何百年も。そうしてい

    るうちにそれはいつも決まった時期だということがわかり、そうやって暦ができたわけだ。さらに昔の人は今みたいに雨が降るしくみを知らな

    いから、雨が降るのは何の生徒考えたかと言うと?。

生徒:「神様が降らした!!」

教師:そうだ。神様。だから雨を降らしてとか逆に雨を止めてとか洪水を止めてなど神様に頼むのでどこにも神に関わる建物や行事が出来ている。

   こうしてみると、文明の特徴のうち「水」と「文字」と「暦」と「神」はみんなひとつながりなわけです。

○板書事項(文明の特徴)

@王・奴隷などの身分がある。

A文字・暦がある。水に関するものがある。神を祭っている。

 ※農耕を行って行くのに必要な知識であり、技術でもある。

教師:ところでもう一つの特徴である人のほうだけど、奴隷ってどう言う人のことをいうの?。

生徒:「王様の召使い!!」「いろんな仕事をする人!!」

教師:なるほど。じゃあどう言う人が奴隷になるのだろうか?。

生徒:「貧乏な人!!」「お金のない人が身体を売る!!」

教師:ほんとうにそうかな?。・・・・・・・・・・・・じゃあ教科書をみてごらん。教科書のp16。ローマ帝国のところに奴隷の事が書いてある。

生徒:「・・・・・・・・・・・」「連行された人!!」「ほりょとして連行された人が奴隷になる!!」

教師:そうだね。ほりょ。ほりょって何ですか?。

生徒:「戦争?。」

教師:戦争で?

生徒:「戦争で負けてつかまった人?。」

教師:そうです。戦争でつかまった人。というより、この時代の戦争は奴隷を手に入れるためにやったようなものなんです。そして奴隷と言うのはどう

   いうあつかいをうけたの?。

生徒:「ものをいう道具!!」

教師:つまりどういうこと。ものをいう道具って。

生徒:「生きている道具ってことかな?。」「人間を道具みたいにあつかうってことかな?。」

教師:そう。そのとうりです。もう一つ資料を見てみよう。教科書p15のハムラビ法典。

ハムラビ法典

(195条)子が自分の父を打ったときは、子の手を切り取る。

(196条)人が他人の目を傷つけたときは、その人の目を傷つける。

(197条)人の骨を折ったときは、折った人の骨を折る。

(199条)他人の奴隷の目を傷つけたり、骨を折った者は、奴隷の値の半分を支払う。

教師:199条を読んでみると、奴隷ってどう言う扱いを受けたか分かるよ。

生徒:「もの?」

教師:なんでそうわかるの?。

生徒:「他人の奴隷って書いてあるから、持ち主がいたということでしょ。」

教師:はい。正解。そして奴隷には「値」がついていたということは?。

生徒:「値ってなんですか?。」

教師:値段の事です。奴隷には値段がついていた。ということは?。

生徒:「奴隷は売られていたっていうこと?」

教師:そう。そのとおりです。戦争でつかまえられ連行された人は奴隷市場に連れて行かれそこで値段をつけられて売られるわけだ。これは筋肉が

   発達していて力持ちだとか。これは美しいとか、これは賢いから召使いや家庭教師にどうぞってね。

生徒:えっつ、先生も奴隷だったの?。

教師:ギリシアではね。いろんな国を攻めてそこの優秀な人をつかまえてきて教師にしたっていうね。

生徒:「へえーっつ。知らなかったよ!」

○板書事項補足

@王・奴隷などの身分がある⇒奴隷=ものをいう道具。もの・動物あつかい。
                   ※戦争でほりょとして連行された人がなる

教師:さて、奴隷はどう言う人かわかった。ところで王っていったい何?。何をしている人のこと?。

生徒:「えらいひと?」

教師:えらいってどういうこと?。何がえらいの?。

生徒:「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

教師:ちょっとここで資料を見せよう。(黒板に写真をはる)

生徒:「あっつ、クレオパトラだ!!」

教師:ちがうよ。クレオパトラは女性。これは男性。ひげがついている。

生徒:「ほんとだ。ひげがついている!!」

教師:これはエジプトの王、ツタンカーメンのミイラにかぶせてあった黄金のマスクだ。ツタンカーメンは19歳で殺された王なんだけどね。

生徒:「これほんとに金?」「すごいなー」

教師:そう。金で出来ている。王は死ぬとこういう黄金製品で包まれて墓に葬られるんだ。ところでもう一つ写真を見せよう。

生徒:「ピラミッドだ!!」

教師:そうピラミッド。ピラミッドって何だっけ?。

生徒:「王様の墓!!!」

教師:だと言われているんだけど、ピラミッドの中のお棺からは王のミイラが発見されていないんだ。でも王様が作らせたものにはちがいがない。で

   もここでは一応王の墓と言う事で考えておこう。ところで大きさだけど人間がこの大きさ(写真を指で指す)だから・・・・」

生徒:「でぇけー!!」「すごい大きさだね!!」

教師:そう。大きい。これは高さ146メートル。2.5tに切った石を約230万個積み上げて作ったものだ。しかもこの石はここで取れたのではなく、約100キ

   ロ離れたところから切り出して運んできたもの。こう言う墓を作る事の出来る人が王だ。そこで問題。王は集団にとってどのような役割を果たして

   いるんだろうか。これについての自分の考えをノートに書いてみよう。

(ノートに書く時間ー2・3分ー)

教師:では席を移動して、班でみんなの意見を出し合ってみよう。

(班での討論の時間。この問題はみんなの持つイメージが大体同じなのかわりともめずに討論を終える班がおおい)

教師:では各班の討論の結果を発表してもらおう。じゃあ4班。

生徒:「はい。4班では王はみんなに命令を出し指示をする人だということになりました。」

教師:ありがとう。では次は6班。

生徒:「はい。うちの班は、いろいろ意見が出たんですが奴隷や人民に命令しいろんなことをやらせる人ということでまとまりました。」

教師:ありがとう。じゃあ次は・・・1班お願いします。

生徒:「はい。まとまらなかったんですが、王はみんなをまとめる人、戦争になったときなどは先頭に立って闘う人、戦争の上手い人、と言う意見が出

    ました。」

教師:はい、ありがとう。今までの班とちょっと違うね、で、次は、3班お願いします。

生徒:「はい。王というのはえばっていてみんなに命令ばかりしていて仕事をさせ、自分だけ良い生活をしているいやなやつということになりました。」

教師:なるほど。いやなやつですか。じゃあ次は2班お願いします。

生徒:「はい。6班と同じです」

教師:そうですか。ありがとう。では最後に5班の意見を聞いてみましょう。

生徒:「はい。王はみんなに命令して集団を良いほうに導いて行く人、と言う意見と、他の班と同じで命令だけして働かないいやなやつと言う意見がで

   て、討論はまとまりませんでした。」

教師:ありがとう。ちょっと違う意見が出てきたね。さあ、みんなの意見を見なおしてみよう。

○みんなに命令して指示をする人。

○奴隷や人民に命令していろんなことをやらせる人。

○みんなをまとめる人。戦争の先頭に立って闘う、戦争の上手い人。

○えばっていてみんなに命令ばかりしていて仕事をさせ、自分だけ良い生活をしているいやなやつ

○みんなに命令して集団を良い方向に導いていく人。

教師:命令する人って言うのは共通しているね。そして多数意見は王は命令だけしている人で働かず、自分だけ良い生活をしているいやなやつ、と

    いうことだね。だとすると、このピラミッドなどを作らされている人はどんな気持ちで作っているんだろうね。

生徒:「やな気持ち!!」「やりたくない!!!」「逃げたい!」「なんでこんなやつのために苦労しなければいけないんだ!!」

教師:なるほど。そうなるね。じゃあこんな資料があるんだ。読んでごらん(資料を配布する)

  <パンドラの箱は開かれた!> 資料@

        「王族夫妻も民衆とともに良く働いた!」

  • 日本の古墳の主の骨からわかること

 @熊本県玉名郡菊水町の3つの古墳の主

 「この古墳に葬られた3代の王たちは働き者で、仕事量もすごかった。3人とも左腕は普通なのに、右腕は上腕骨が非常に発達していて、筋肉質である。ひじの関節もよく使っている。脊椎(背骨)に過重な負担がかかって変形し、骨盤も磨り減っている。座りながら右手を使う仕事に従事していた。3人とも過重労働で脊椎が変形するほどよく働いていた。」

  しかもこのうちの2人は親指と人差し指の先の骨がつぶれていた。

 この事実とこの地方は石の産地であり、舟形石棺(船の形をした石のお棺)の産地であることから、この古墳を発掘した人は「三代の王は石工を職業としていた」と見ている。

A大分県臼杵市の臼塚古墳の主

 「この古墳からは二つの舟形石棺が見つかり、二組の夫婦の人骨が見つかった。この4人の骨にはすごい外耳道腫(がいじどうしゅ)があった。これは耳の入り口近い軟骨にできるおできで、海に潜ることで、冷たい水に刺激されて起こる。これができたものは間違いなく海人(海にもぐって魚介類をとる人)である」

 この事実と,この地域が昔から海部郡(あまぐん)とよばれ海人の人々からなる地域であることから、この古墳を発掘した人は、「王夫妻は常に海に潜って、アワビやサザエなどをとっていた」と見ている。

(「神と女の古代」毎日新聞社刊より)

教師:つまり日本のこの古墳の王様は何をしていたのかな。

生徒:「石工!!」「海人!!」

教師:つまりみんなと同じ仕事をしていたんだね。もう一つその裏の資料を見てごらん。

黄河文明の伝説(堯・舜・禹の3人の王)

堯は黄河流域の王でした。堯は天文台をつくり4人の家臣に東西南北の夜空を観測させ農耕に必要な暦をつくり、春・夏・秋・冬を定めました。このことで人々は時期をまちがえず農業を行えるようになりました。また、堯は有能な人をさがして、様々な仕事を与えました。そのようにして人々の中から取り立てられたのが舜でした。

 舜は年をとった堯のかわりに政治を行い、天体観測をしたり、ものさしの長さを決めたりはした。やがて堯が死ぬと舜'は、村の長老たちの希望で堯のとをついで王になりました。

 ちょうどこのころ人々は黄河の洪水に悩まされていたので、舜は鯀に治水を命じました。ところが鯀の治水は長い年月をかけたにもかかわらず失敗してしまったのです。

 そこで舜は人々の中から禹を治水工事の責任者として選び出しました。禹はそれ以来、13年間、自分の家の前を通っても家に寄らず、生活をきりつめて治水の費用にあてました。そしてただ堤防をつくるだけでなく水の流れを分散させ、黄河の勢いを弱めたりもしました。そのかいがあり、ついに禹は黄河の治水を成功させました。この工事のおかげで々は洪水の被害を受けなくなり、また田畑も水を十分引けるようになったのです。

 やがて舜が死ぬと禹は長老たちからおされて王の位につきました。禹は国に「夏」という名前をつけました。

教師:これは中国の伝説なんだけど、この話しだと王様は何をしている?。

生徒:「仕事を与えた!」「天体観測をさせて暦をつくった!」「堤防をつくって洪水をなくした!!」

教師:そうだね。王は働いていたし、みんなのためになる事をしていたんだね。だとすると、王の墓を人々はどんな気持ちで作ったのだろうか。自分

    の考えをノートに書いてみよう。

(意見をノートに書く時間)

教師:じゃあ、何人かに意見を聞いてみよう。○○さん。お願いします。

生徒:「私は感謝しながら作ったと思います。なぜなら王様は集団のためになることをいろいろやってくれたからです。」

教師:ありがとう。つぎに△△くんお願いします。

生徒:「悲しみながら作ったと思います。あんなにみんなのためになる事をしてくれたのに・・・・・という気持ちです。」

教師:なるほど。ありがとう。では最後に■■くんお願いします。

生徒:「はい。立派な人だったんだから立派な墓を作ってあげようという気持ちだったと思います。」

教師:ありがとう。みんなの意見はどうかな。ここは一人一人がきちんと資料を読んで考えておいてください。では次の時間は日本はいつから文明に

   入ったのかということを考えてみます。

 


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