<夢の浮世(改定版)>Aいつもニコニコ現金払い
教師:では、今日から、江戸時代の暮らしを、少し詳しく見ていきます。・・・今日のテーマは・・・(フリップを貼る)
生徒:「何? いつもニコニコ現金払いって?」
教師:うん。商売のやり方でね、現金と引き換えでなければ物を売らないというやりかただ。
生徒:「そんなの当たり前じゃあないか。他のやりかたがあるの?」
教師:いい質問だ。掛売りとかつけとかいって、その時はお金をもらわないであとでまとめて支払ってもらうやりかたがあるんだ。
生徒:「ローンみたいなもの?」
教師:ちょっと違うけど似たようなのもかな?。
生徒:「じゃあ、いつまとめて払うの?」
教師:12月の末だよ。大晦日までにはらうんだ。
生徒:「はらわなかったらどうなるの?」
教師:だから12月になるとお店の人がお客の家をまわって催促するんだ。そして払ってもらえそうもないところには『取り立てや』っていう怖いお兄さんをつれていくんだ。
生徒:「わあ、やくざやさんだ!!」
教師:うん。そういうこと。だから12月はたくさんのお店の人がお金の取立てに走り回っているし、支払う方は支払うお金を借りるために走り回っているというわけ。
生徒:「だから師走っていうの?」
教師:そういうこと。
生徒:「じゃあ、現金払いの商売っていつから始まったの?。」
教師:うん。それが江戸時代なんだ。・・・今日はこの『いつもニコニコ現金払い』という商売をはじめてやった人のことを勉強してみよう。資料集の98ページを開けてください。・・・・そこの「日本一の商人」を読んでみよう。
日本一の商人(あきんど) 1673年に今の日本銀行付近に開業した三井高利(52歳)の越後屋は、1年目に銀80貫目の売り上げ、2年目で270貫目と大当たりした。 |
生徒:「2000両ってどれくらい?」
教師:1両がだいたい12万円ぐらいだから・・・・(黒板に計算式を書いて計算する)・・・
生徒:「2億4000万円!!すげー」
教師:そう。すごいね。もっともこの店でもいつも2億4000万円の売上があったわけじゃないよ。多いときにはということで、こんな時には「お祝をする」ということらしいね。
生徒:「でもすごいよ。」
教師:うん。すごいね。・・・・じゃあこの三井さんの商売の秘密をさぐってみよう。資料集のp98『新商法で大当たり』をあけてください。
教師:この三井さんのお店は越後屋呉服店っていうんだ。今は名前をかえて『三越デパート』になっている。この資料の絵は神田駿河町の越後屋本店の様子を描いたものだ。しばらくじっくり見てごらん。・・・・お店の上のほうに服がぶら下がってるね。これなんだと思う?。
生徒:「見本かな?」
教師:見本って?。
生徒:「こんな服売ってますていう意味」
教師:なるほどそうかもしれないね。じゃあ、その見本の服の横の人の名前はなんだと思う?。
生徒:「店員さんの名前?」
教師:そう。じゃあ何のために店員さんの名前を書いてあるのかな?。・・・・
生徒:「わかんないよ!!」
教師:そうか。これはね、こういう服が欲しい人はこの店員を呼んでくださいというものなんだ。『若三郎さん!長吉さん!』って呼べば『へえーい』とその服に担当の店員さんが出てくるという仕組み。越後屋の新商法の一つだ。下の他の店と越後屋の商売のしかたの違いの表を読んでごらん。
教師:他の店は訪問販売という方法で品物をお客さんの所にもっていくけど、越後屋は?・・。
生徒:「店前売り!」
教師:そう。お店にきてもらうやりかただね。・・・支払い方法は、他の店は後払いで値段もその分高いけど、越後屋は?・・・。
生徒:「現金売り掛け値なし!!」
教師:そう。現金払いだから利息含みの掛け値ではないので、その分安いわけだ。・・・他にも他の店がやっていない工夫があるね。
生徒:「即日仕立て!!」
教師:その場で注文服を仕立てるやりかただ。
生徒:「他の店はどうするの?」
教師:普通は呉服屋さんは布を売るだけ。買った人が自分で仕立てるか、仕立て屋さんというお店に持っていって作るかしなければいけない。
生徒:「ずいぶん便利になったんだ」
教師:そうだね。・・・他の工夫は?。
生徒:「既製服や特価品!」
教師:既製服ってなに?(すぐにはわからないみたい)。既製の製の意味は?。
生徒:「つくる!」
教師:じゃあ、既は前もってとかすでにという意味だ。
生徒:「すでに作ってある服?」「なんだ。今の服屋とおんなじじゃん。」
教師:そうだね。・・・では特価品って?。
生徒:「特別に安いもの」「あっつ、バーゲンセールだ。」「これも今と同じだね。」
教師:ほかにもいろんな工夫があるが、最後に一つ。他の店は御大家相手とあるが、どういう意味かな。
生徒:「大名のことかな?」
教師:うん。そうだね。じゃあ越後屋はだれを商売の相手にしているの?。
生徒:「庶民あいて!」「普通の人!!」
教師:そうだね。その庶民って誰をさしているのかな。
生徒:「庶ってどんな意味?」
教師:うん。他のとか普通のとかいう意味じゃあないかな。
生徒:「わかった!。農民。町人。職人!」 「お金持ちじゃあない人!」
教師:そんなところだろうね。
板書事項 ○越後屋が他の店と違うところ @現金売り・掛け値なしで安い |
教師:さてそこで質問です。『なぜこのような新しい商売が可能になったのか』
生徒:「可能になるって?」
教師:そういう商売ができるようになったのはなぜかということ。もしくはそういう商売がうまくいったのはなぜかということかな?。
(各自ノートに自分の考えを書く)
教師:ほぼ、できたかな?。・・・じゃあ、班で意見を出し合ってまとめてみてください。
(各班で討論し、意見をまとめる)
教師:ではみんなの意見を聞いて見よう。・・・・はい。2班。お願いします。
生徒:「はい。安くて便利だからうまくいったんだと思います。」
生徒:「今のに追加!!」
教師:はい。6班。どうぞ。
生徒:「はい。便利といえば、布を売るのと服を作るのとが同じ店でできるので、便利だと思います。」
教師:なるほど。そうだね。他には?・・・・・。はい。3班。お願いします。
生徒:「はい。この越後屋の商売のやりかたは、庶民がやって欲しいと思っていたやりかただったからです。」
教師:おっつ、どういうことかな?。
生徒:「はい。平和になって戦争のために暮らしを乱されることがなくなって、庶民の生活が楽になったのが江戸時代でしょ。それで少しは良い生活をしたいと思って、ちょっとお金を出して服を買いたいと庶民は思っていたと思います。ちょうどそこに越後屋が安くて便利な店を出したから、売れたんだと思います。」
教師:なるほど。平和になったから庶民がそういうお店を望んだということね。・・・他には?。・・・・はい。5班。
生徒:「はい。大名じゃあなくて。庶民を相手にしたからうまくいったのだと思います。」
教師:どう言う意味かな?。
生徒:「はい。大名よりも庶民の方がたくさんいるじゃあないですか。だから、この方がもうかるってこと。」
教師:あっつなるほどね。…何?。◎◎くん。
生徒:「はい。たくさんいる庶民が呉服屋さんのお客になったということは、やっぱり世の中が平和になったからだと思うんです。戦争ばっかりでは、庶民は贅沢なんかできないでしょ。」
教師:うん、そうだ。そのとおりだね。・・・ではみんなの意見を整理してみよう。
板書事項 ○なぜ新商法が可能になったのだろう? ・世の中が平和になり、庶民の生活が豊かになり、服を買えるようになったから?。 ・庶民の望んでいた安くて便利なお店だから。 ・大名より人数の多い庶民を相手に商売したから。 |
教師:じつはね、越後屋の商売が成功した理由は、もう一つあるんだ。
生徒:「まだあるの?。」「何。それ?。」
教師:うん。それはね。・・・江戸時代は各地に大きな都市ができて、町人の人口が多くなった時代でもあるんだ。越後屋があるのは江戸という町でしょ。その町に住む人、つまり大部分は庶民なんだけど、その町に住む人が増えていることも、越後屋のような新商売が出てきた理由でもあるんだ。
生徒:「へえーっつ」
教師:ここで、当時の都市についての資料を見てみよう。配ります(資料@都市の発展を配る)。
<夢の浮世> 資料@ 都市の発展 ○都市の人口
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教師:資料の「都市の人口」を見てご覧。 江戸時代の大都市を人口の多い順に並べてみたんだ。
生徒:「江戸って53万人も居たの?。」「武士も同じ数居たって書いてあるぞ。」「ということは100万人だ。」「すごい!!」
教師:うん、すごいね。この数字は、17世紀の世界では、一番なんだ。
生徒:「世界一の都市?!!!」「すげー!!!」
教師:うん。ところでもう一度「都市の人口」の表にもどるけど、城下町ではない大都市があるね。
生徒:「大坂!」「京都!!」
教師:そうだね。どんな性格の都市?。
生徒:「商人町!!」
教師:そうだね。・・・これは江戸時代より前からあった大都市で、商人や職人の町。でもそれぞれは少し性格も役割がちがうんだ。
生徒:「京都には公家や僧侶がいるよ!!」
教師:そのとおりだ。京都には公家・僧侶という貴族身分の人もいるんだね。そして役割も違う。(板書する)
都市名 |
大坂 |
京都 |
都市の性格と役割 | 商人の町 天下の台所 ※日本中の品物が集まり ここから全国に送られる |
商人と貴族の町 日本一の工業都市・文化の中心 ※織物・刃物・なべかま などが作られ、全国に送られる |
教師:そしてこれ以外にもたくさんの町ができた。例えば川崎は東海道の宿場町川崎として出来、そのそばの川崎大師という有名なお寺の前に大師町という門前町ができて、後に二つがくっついて今の川崎になったんだ。みんなの住んでいる二子・溝口も宿場町だ。
生徒:「宿場って何?」
教師:宿屋など旅をする人に必要な店が集まった町ということ。あそこの川崎信用金庫のところで学校の前の府中県道に交差する道路あるだろ?。
生徒:「大山街道?」
教師:そう。大山街道だね。その大山街道の宿場町としてできたんだ。とくに二子は本当は今よりもっと南にあった小さな村だったんだけど、大山街道が出来るというので村をあげて街道沿いに移り住んで、今の形になったそうだ。
生徒:「へえー、知らなかったよ!!」
教師:こんなふううにたくさんの町ができて町人の数が増えた事も、越後屋さんのような新しい商売ができた理由の一つなんだね。
生徒:「何で都市ができたの?。」
教師:良い質問だね。・・・今の資料の、都市の性格に注目してみよう。・・・・多くの都市の性格は?・・・。
生徒:「城下町!!」
教師:そう、城下町だね。・・・これは戦国時代が終わって、大名の城を高い山の上ではなく、平地で交通の便の良いところに作りなおして、その城のまわりに大名の家臣や職人や商人を集めて住まわせて、新しく町をつくったんだ。資料@の「都市の仕組み」の図を見てご覧。
教師:例えば彦根だと、城のまわりに「士卒屋敷」といって大名の家来の家が集まっている。そのまわりに「町屋敷」といって、職人や商人の町がある。例えば「大工町」とか「魚屋町」といったふうにね。
生徒:「あっつほんとだ。」
教師:武士の家の周りに職人や商人の家が集められたんだ。・・・そしてこの町も道路を見てごらん。白い部分だけど・・・・。
生徒:「真っ直ぐだ!」「直角に交わっているよ!」「町が四角い形をしている!」
教師:そう、これが新しく作られた町の特徴なんだ。人工的に作られた町の特徴なんだよ。・・・なんで武士の家のまわりに職人や商人の家が並んでいるんだと思う?。
生徒:「・・・・?。」「そのほうが便利だから?。」
教師:どう便利なのかな?。
生徒:「商人や職人がそばに居れば、必要なものが手に入りやすいから?。」
教師:そう。必要な武器や食料などを手に入り安いよね。・・・所でお城のまわりになんで武士の家を集めたんだっけ。
生徒:「・・・?。」「反乱を防ぐため?。」
教師:おっつ、いいぞ。##君説明して。
生徒:「はい。戦国時代に、戦国大名は、家来が農民と組んだりして大名に反抗しないように、家来をお城の回りに集めました。家来が大名の所に住んで、他の所にお城を持ったりしなければ、反乱することもできないからです。」
教師:そうだったね。江戸時代も同じだよ。天下統一がなされたあとで、全国的に大名のお城が作り直されて、まわりに町がつくられ、大名の家来はみんな町に住まなきゃきけなくなった。そしてその周りに職人や商人があつめられて、武士の生活に必要なものを供給したんだね。・・・要するに平和な国にするために、武士・職人・商人を町に集めたんだ。・・だから江戸時代には各地に町ができたってわけだよ。(なるほど!!!)
生徒:「町が出来たのは平和にするためなんだ。」
生徒:「平和になったから町が出来たっていうこともあるよね。」
教師:そうだね。平和のために町をつくって武士・職人・商人を集めた。・・・そしてその町が栄え、そこはとても豊かで自由な所だったから、農民をはじめ、たくさんの人が集まったので、都市はもっと大きくなった。それで越後屋のような商売が可能になったんだね。
生徒:「そういうことか!!」
教師:そう。・・・・じゃあ、最後にノートの一番下の問題で今日やったことを確認しよう。
○まとめ:江戸時代は【 @ 】は農村に住むことが禁じられ、大名の城を中心に各地に【 A 】ができ、【@】はすべてここに住むこ とになった。【@】の生活をまかなうために多くの【 B 】や【 C 】がこの町に集められ、この自由な町にあこがれて多くの【 D 】 も町に移り住んだので、都市の人口は増大し、商業も発展した。 |
教師:わかるかな?。・・・@は?。
生徒:「武士!!!」
教師:そうだ。・・・じゃ、Aは。
生徒:「城下町だ!!!。」
教師:そう。・・・じゃ、BとCは?。
生徒:「商人!!!」「職人!!」
教師:そうだね。・・・では最後のDは?。
生徒:「農民!!!」
教師:そうだね。・・・じゃあ、これで今日の授業は終わろう。